憂鬱な夜

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「ねー、A？今日は？」


「あー。むり。なんか最近よく呼ぶね。暇なの？」


「暇っちゃ暇？」


「なにそれ。…今日はむりだから。」



他の子呼びなよ、とは言わずに通話を終了した。前に比べて頻度が増えた気がする、樹からの呼び出し。卒業に向けて、諦めようと断る回数を増やした。嬉しいのに嬉しくない。予定なんてないし、なんなら直ぐに会いに行きたいのに、それをしないのは変に期待するのをやめたいからだ。


『断ったよ、えらい！Aちゃん！』

『一々報告しなくていいから。…まぁ頑張ってんな。』

『酒でも飲む？』

『やだ』


メッセージでも冷たい。即答で北斗に断られた。この隙間の時間がいやなんだよ。余計なこと考えちゃうし、見たくないものだってみちゃう。


「うっわ。…樹だ」


自室で独り言。投稿されたストーリーにはたぶん、樹の後ろ姿と「誘ったら渋々きてくれた♡じゅり♡」だって。確か同じゼミの女の子。樹の交友関係ってすごい。会わなくても簡単に私にダメージ与えるんだもん。


『ほくと、いま樹はこの子といるよ』

そうスクショした画面を送ったら着信きた。北斗だ。


「ほくとー？なにー？」

「ネットストーカーするな」

「……たまたまだもん」

「心の健康に悪いよ、本当に」

そんなのわかってるよ、ばかやろう。それでもなんにも知らないところで誰かと楽しんでるって思う方がやつれちゃいそうなんだよ。ほくとくん。

耳元で聞こえるため息は、私を思ってのものか、呆れてのものかはわからないけど。それでも電話を切らないでいてくれるのだから、北斗は優しいね。


「…まぁ、えらいよ。お前は」

「うっわ。投げやり！心込めてよ」

「心込める気ないからね。じゃあ。」

その調子で樹離れがんばって、と声だけなのに憎々しく笑う北斗の顔が浮かんだ。樹離れだって。すごい嫌な響き。


電話が切れて、もう一度スクショした画像をみた。私と会う時はダル着のくせに。可愛い女の子と会う時はきめてるんだなー、こんなジャケット初めて見たもん。くたびれたトレーナーで酒を煽ってゲラゲラ笑う樹と全く正反対だ。




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