タバコ越しにキスをして、【灰谷竜胆】 (ページ7)

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06 竜胆side ページ7

帰宅してきたAの仕事専用のメイク。いつもより濃いめだけど、凄い綺麗で。

ラベンダーパープルで纏っている目元が、俺の髪色みたいで自惚れてしまいそうになった。

泊まる、と言っても慣れたような態度を取られると意識されてないんだと改めて思い知る。

……俺の気も知らないで。

口寂しくなると、タバコを吸いたくなる。Aはタバコが嫌いだと言うけれど、誰のせいで吸うようになったと思ってんだよ。

全部全部、お前のせいだからな。

まだ、男を知らないAをぐちゃぐちゃに汚したい。でも、無理やりは俺の趣味じゃないし、ずっと純粋で綺麗なままで居て欲しくて。

誰かのものにもなって欲しくないけど、今の関係が壊れるのはもっと嫌で身動きが取れなくて。

タバコを吸った時に、いつもAに煙を吹きかける。けれど、コイツは迷惑そうにいつも表情を歪めて「タバコの煙吹きかけないで」と怒ってくるのだ。

これが、俺なりのアプローチだって事にすら気づいてねえんだもんなぁ。

Aの全部が奪えんなら、タバコなんて辞めてやるよ。でも、そんなの無理に決まってる。無謀な考えだ。

認めたくねえけど、Aは兄貴の事が好きなんだと思う。いつも、何かと困ったら「蘭くん」と付き纏って助けて貰ってるし、兄貴には物凄く可愛い笑顔を向けるんだ。

……兄貴には敵わない。そんなの分かってるけど。それでも、Aの事は諦めたくなくて、気を引きたくて。

仕事で夜の店に行く日に口紅をつけられて、安っぽい香水の匂いを纏わせて、わざとAの家に行くのに。

Aは気にも止めないで平然としている。どんだけ、俺に関心ねえんだよって思うくらいだ。

タバコを吸う度に、虚しくなる。わざわざこんなくそ不味いモンを体内に入れているなんて馬鹿らしくなってしまうくらい。

灰皿に擦り付けて火を消す度に、Aへの想いも簡単に消せたらいいのにと、思う。

今だって、隣に俺が居るのに、無防備に寝息を立ててすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

ソファで寝たら、風邪ひくだろって声もかけてやったのに。意識されて無さすぎて腹立ってくる。

「Aなんて、嫌いだバーカ。」

俺の気持ちに気づかないAなんて、嫌い。でも、本当はAがずっと好き。

腹いせに寝てる隙にいつもキスしてる。俺だけの秘密。気づかないで呑気に寝てやがって。

ざまぁみろ。大事なファーストキスなんてとっくに俺が奪ってんだよ。