タバコ越しにキスをして、【灰谷竜胆】 (ページ33)

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32 竜胆side ページ33

Aの口から零れた、俺に貰ったから嬉しいという言葉。

それが、もし俺が想っている気持ちと同じようなものなら、今すぐにAに好きだと言いたくなって。

俺は俺で口走って、Aに好きだと伝えようとした。

しかし、こんな時に限って空気の読めない誰かからの電話。Aの仕事関係だと困ると思って、出るな、なんてとてもじゃないけど言えなかった。

最後まで言えなかった悔しさをグッと堪え、飲み込み、Aと電話越しの相手のやり取りを黙って聞いていた。

「もしもし。」

最初は丁寧に電話に出るけれど、すぐに親しい相手だとわかると仕事モードではなくなった。

「蘭くんもね。……香水ありがとう。」

どうやら、電話の相手は兄貴だったらしい。

あの香水、兄貴があげたのか？Aの為に？

兄貴なら、女に香水を贈る意味くらい、知っているはずだ。Aの事を好きだなんて1度も聞いたことがないのに、何を考えているのだろうか。

もしかして、俺に遠慮していただけでAのことが好きなのか？兄貴の考えている事がたまに分かんねえ。

「うん、またご飯いこうね。……おやすみなさい。」

Aが電話を切るのと同時に、苛立ちが募った。いくら兄貴でも、Aの事は渡したくない。

俺の方がずっとずっと好きだったのだから。

「ごめん、竜胆。電話、蘭くんだった。」

「兄貴と、飯食いに行くなよ。」

「え？」

独占欲くらい、俺にだってある。兄貴がAに対して独占欲があるのなら、俺だってそれ以上にある。

今まで、何のためにわざわざAの傍にいて、こうして合鍵まで受け取って、他の男達がAに近寄れないようにしてたと思ってんだ。

兄貴だって、そんなの知っているはず。

「兄貴じゃなくて、俺と飯行こ。」

「何、急に……」

突然の発言で、すっかり困っており、眉を八の字に下げるA。

「……俺がいるんだから、兄貴じゃなくて俺でいいじゃん。」

「竜胆？」

Aは少し考えたような表情をする。みるみる曇っていくAの表情に胸をチクリと痛める。兄貴の手を取らないで。俺の手を取って欲しい。

こんなに、Aの事、ずっと近くにいて思っているのに。

「大丈夫だよ、竜胆。竜胆から蘭くんを盗ったりしないから。」

「は？」

「蘭くん盗られると思って嫉妬したんでしょ？仲良く3人でご飯行こうよ。」

……クソ鈍感。嫉妬してんのはお前じゃなくて、兄貴にだよ。