タバコ越しにキスをして、【灰谷竜胆】 (ページ23)

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竜胆の気まぐれだと分かってはいても、私に何かをプレゼントしてくれると言ってくれてとても嬉しい。

熱に浮かされた気分になり、笑みが零れてしまう。

でも、今日も強い香水の匂いがした。また、女の人と一緒にいたのかな。私のところに来るなら、女の人と会ってから来ないで欲しい。

そう思うけれど、恋人でもなんでもない私がそんな事を口に出せるはずも泣なくて。

レッドムスクとシトラスが混じったような独特な匂いが鼻につく。嫌な意味で、残る匂いだ。

この匂いを忘れ去ろうと別の事を考える。先程チェックしていた好きなブランドの香水をもう一度見てみた。

シンデレラがモチーフになっているガラスの靴の瓶。そんな素敵なものを、好きな人からプレゼントされたら誰だって嬉しいに決まっている。それも、私のお気に入りの匂いだし。

香水の匂いが嫌いという訳じゃない。むしろ、私も香水はよくつける方で、よく集めてしまう。

だけど、竜胆にベタベタとくっついた女の人の香水の匂いは何故かいつも強くて鼻粘膜に残るような私の苦手な匂いばかりだった。

やっぱりどこか、そういう女の人の趣味と私の趣味がとことん合わないのだろう。

ガラスの靴を持って迎えに来てくれる王子様みたいに、竜胆も私の恋人になってくれたらいいのに。

そんな、夢見る夢子ちゃんみたいなお花畑な考えを過ぎらせて見るも、すぐに我にかえってバカみたい、と冷静になる。

竜胆がガラスの靴を持って迎えに来てくれる王子様なら、もうとっくにどうにかなってる。

振り向いて欲しくて、竜胆の好みの女になりたくて、この12年間ずっと頑張ってた。

それでも、振り向いてくれない。竜胆の好みとは真逆の女の子と一夜を過ごす事が多いのなら私のやってきた事は無駄だったのかもしれないって。

ダメだ、余計なことを思えば自己嫌悪に陥って1人でつらくなってしまう。

「A。」

私の目の前に座ってきて、ドライヤーを差し出してきた。もしかして、乾かして欲しいって事？

「さっき乾かしてやったから。」

だから今度は乾かしてって？この数年間で甘えるような事して来なかったじゃない。

いきなり、そんな可愛いことされたら困る。

……出会ってから少し経った頃の事をふと思い出して、勝手に懐かしんでしまう。

ドライヤーを手に受け取って、竜胆の髪に触れる。数年前とは変わって、少しギシギシときしんでいるような髪質になっていた。