00 prologue ページ1
私のお気に入りのホワイトフローラルブーケの芳香剤の匂いが部屋を包み込んで、癒しの空間だった。……先程までは。
彼が私の部屋に上がり込んで来てからは、女物の安っぽいようなツンと鼻に残るパルファムの匂いとタバコの匂いで支配される。
首筋には、いかにも事後です、と言わんばかりのだらしなく跡がくっきりついているキスマーク。ワイシャツの襟付近には薔薇のような真紅色のリップが唇の形を残していた。
……もう、見慣れた。彼のこの姿は何年経っても変わらない。
女にモテる事はよく知っている。彼が18歳の頃から12年経った今でもそれは同じで。
でも、年々こんな彼を見る度に胸が苦しくなる。それでも、私に責める権利はない。
だって、私たちは恋人では無いのだから。
私と彼はただ単に付き合いが長いだけ。少なくとも彼に、私への好意は一切感じられない。
「……タバコの煙、吹きかけないでよ。」
私の隣でタバコを吸っている彼が、煙を私の顔に吹きかける。煙たくて、噎せてしまいそうになっては、彼にいつも文句を垂れる。
私がタバコを嫌いなの、知ってるくせに。一種の嫌がらせでは無いのかと思うくらい、吸う度に吹きかけてくる。
「Aに以外にはしてねぇし良いだろ。」
ちっとも、良くない。……人の気も知らないで。
私は、彼をずっと好きなのに。どれだけ、女の人を抱いていたとしても、振り向いて貰えなくても。
彼を好きなまま、年月だけが過ぎて、もう12回も季節が巡った。
長く居すぎて、1人の女として見てすら貰えない哀れな女。
「今日も泊まっていい?」
「いいけど。」
本当にただ泊まって眠るだけの彼。大人の境界線を越えたことは未だかつて1度もない。余程、私は彼にとって恋愛対象外なのだろう。
タバコの灰が、灰皿に溜まっていく。それはまるで、私の積もり積もっているフラストレーションのよう。
彼がタバコを吸って灰を落としていく度に。私の彼への想いが、灰になって消えていくみたいに思えた。灰皿に収まりきらなかった灰を指で擦ると、机に黒く伸びて微かに跡を残す。
ドロドロに溶けていくような私の汚くて醜い黒い感情みたいで、切なくなる。
少しは、私の事を意識してくれたっていいのに。振り向いて、欲しいのに。
ずっとずっと振り向かせたい。貴方、たった1人だけを。
無謀だと知っているから、いつかはちゃんとこのタバコの灰のように想いの煙を消さなくちゃいけない。
私の想いはまるでタバコの灰のようだ。
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うさ - めちゃくちゃ好きすぎます… (3月31日 19時) (レス) @page50 id: 4170d6f2b7 (このIDを非表示/違反報告)
むーこ - めちゃめちゃいいお話しでした!(蘭ちゃん流石。。。男前すぎん?惚れるわ) (1月1日 11時) (レス) @page50 id: 612ac16389 (このIDを非表示/違反報告)
可月(プロフ) - 竜胆最高 (12月27日 7時) (レス) @page50 id: fed16d8c1b (このIDを非表示/違反報告)
さきな(プロフ) - サバさん» ありがとうございます🥹💖 (2022年4月4日 7時) (レス) id: 1d6ef99bbb (このIDを非表示/違反報告)
サバ(プロフ) - さきなさん» これからも応援してます🥰 (2022年4月4日 3時) (レス) id: b9a6851691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2022年3月21日 1時