ずっとずっと…【赤】 (ページ2)

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渋谷先輩の事、初めて知ったのは中学に入学した時のこと

1コ上に、カッコいい先輩達がいるという情報を、どこからか仕入れて来た友達

「ホラッ、あそこ」

“んなこと、あるかいな～”

って、少し離れた所でも聞こえるような、大きな声で話す人

「あれが、サッカー部の村上先輩」

その隣、村上先輩に肩叩かれて、苦笑いしてる人

「その隣が、バスケ部の横山先輩」

その後ろ、気だるそうに歩く人

「…………」

「えっ？もうひとりは？」

「ぅん？」

「村上先輩と横山先輩？の後ろ、歩いて来る人、いるじゃん」

「ん～……知らない」

村上先輩に肩を組まれて、恥ずかしそうに笑う顔。先輩だと思われるその人から、目が離せなくなった

村上先輩と横山先輩、それにあの先輩

3人はいつも一緒に行動していて、村上先輩と横山先輩の少し後ろをあの先輩が歩く…それがお決まりのよう

2年生から部活でレギュラーの村上先輩と横山先輩

私のクラスの女子達の人気も二分してて

「Aちゃんは、村上先輩と横山先輩、どっちがいいと思う？」

「え～…っと」

そう聞かれるたびに、私の頭に浮かぶのは、あの先輩の、あの照れた笑顔

「まぁ…どっちもかっこいいよね」

とりあえず、無難な返事をして

それでも思い出すのは、あの先輩の事だった

次見かけたら、話しかけてみよう…

そう思うものの、何の接点もない先輩に話し掛けるなんて出来なくて

あっという間に一年が過ぎ、中2になった私

所属してるテニス部で、大会メンバーに選ばれた

嬉しいことだけど、大会が近付くにつれて厳しくなる練習、先輩からの叱責

「はぁ…」

自分なんかがメンバーに選ばれて良かったのか…と悩む日々

息がつまり苦しくなって、授業中気分が悪いと嘘をついて教室を抜け出した

そのまま向かったのは屋上

重たいドアを開ければ、ひとりになれると思っていたのに、風に乗って聞こえてくる歌声

その声に引き寄せられるように、近付いて行けば

「…………っ！」

息を飲んだ

いつも控えめに歩いている先輩の、堂々とした後ろ姿

その声を聞いていたら、自然と涙がこぼれた

ん～っと大きく伸びをした先輩が振り向くと、バッチリと目が合って

慌てて頭だけ下げて、屋上から駆け出した

その時見えた名札には“渋谷”と書かれていて

“渋谷先輩”

その日は、先輩の名前を初めて知った日

そして

私が渋谷先輩に、完全に落ちた日でもあった