箱

通り魔 new ページ17

ママに帰りは遅くなったらだめよって言われてた。
最近、通り魔が出るからって。ニュースなんて見ない私だけど
友達とのおしゃべりにもその話題はあったし
面白おかしく、なんちゃって話にしたりもしてた。


夏の夕暮れは遅い 気づくのが遅れたんだ。
お友達と話をしているうちに夕闇は迫っていた。
携帯はマナーモードにしていてママからの電話に気づかなかった。


帰り道を急ぐ。
明るかった外の道は気づくと薄闇に包まれていた。


怖くない。怖くない…


この通り、いつもこんなに人が少なかったっけ？
違う。いつもより遅い時間だからだ。
いつもと違うんだ。


怖くない…


そう思わないと歩いて帰れそうもない。
ママに迎えに来てもらおうと携帯を手に取ると
… 電池が切れている。

背中がぞわぞわした。

早く帰らないとママに叱られる。それより…



路地からさ〜ぬぅ〜って現れて、手になんか持ってんの。それが包丁で…
友達の言っていた通り魔が頭に浮かぶ

そう、ほら、あんな風に。
前の路地から電灯に照らされた影がぬぅっと現れる。
手には… 普通の鞄を下げていた。

小さく溜息が漏れる。
通り魔なんかに会うはずがない。

少し足を速めて家への道を急ぐ。


え〜？私が聞いたのは違うよ？
ガサガサと茂みから音がして振り向くといきなり刺されちゃうんだって。
また別の友達の声が浮かぶ。


”ガサガサッ”


ひっ…

振り返ったらいけない。
でも振り返ってしまう。


”なお〜ん”

太った猫がそこにいた。

「なんだ、猫ちゃんか・・・」



ほらね、やっぱりあれは噂話。
ニュースの通り魔に会った人は運が悪かっただけ。
普通に暮らしていて、そんなに簡単に通り魔に会うわけないんだ。


もう少し歩けば大きな通りに出る。
そこまで行けば怖くない。…怖くない。


お大きな通りに出た。
途端に大勢の人の流れに飲み込まれる。


え？あれ？いくらなんでもこんなに人が多かったっけ？


そう思った刹那


「運が悪かったんだよね」


大勢の中から 誰かが耳元で囁いた。


耳元から入った音は背骨をぎゅっと引っ張り
私の心臓を鷲掴みにした。





・・・・… ……

たくさん人がいてさ、そこで通り魔に囁かれるんだって。
「運が悪かったんだよね」って。

やだ、それだけ？それで何されるの？

それだけ。

それだけなんだけどさ。だから怖いんだって。

そこにいる人の誰が通り魔かわからないんだよ？

私だって心臓止まるくらい驚くよ。

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