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恐る恐る出た甲板は静かで、聞こえるの穏やかな波の音だけだった。
日が昇っていた時は目の前の状況で海を見る余裕などなかったが、月明かりに照らされた海は小さな星が反射して綺麗だった。
｢……っーー！｣
｢夜の海は初めてか？｣
ホンゴウの声じゃない声。
眠ってしまう前に聞いた声。
その声の方をホンゴウと2人で振り返った。
｢頭、寝てたんじゃねーのか？｣
｢医務室行ったら誰もいなかったんだよ。｣
反射的にホンゴウの後ろに隠れているつむぎ。
ホンゴウは大丈夫だと言って私を前に押し出した。
｢よぉつむぎ。｣
｢っ！………………｣
ヘラヘラ笑う男は想像とは打って変わって交友的な印象だった。
それでも無意識に緊張しているのが自分でも分かる。
対面していたのはほんの数秒。
その数秒で限界だった。
私はすぐにホンゴウの後ろに隠れた。
｢隠れるなっての…………｣
必死に首を横に振るつむぎに仕方ねぇなと呆れたホンゴウ。
シャンクスはと言うと、すぐに逃げられた事でショックだったらしい。
いじけていた。
｢頭がいじけたぞつむぎ…………｣
｢…………え……｣
ひょこっと少しだけ顔を覗かせると、確かに怒られた子どものようにいじけた男がいた。
唯一心を開いたホンゴウが頭と慕っているのだから、少しは信用してもいいのかと恐らく恐らく男に近づいてみた。
羽織っている黒いマントをちょんちょんと引っ張る。
男はいじけた顔を向けてきた。
｢…………あの……船長さん……｣
｢……シャンクスだ。｣
そう言って頭を撫でられた。
あまりにも自然な流れで驚くことも出来なかった。
｢後は頭に任せるか。｣
バッと振り返ったつむぎ。
焦ったつむぎをよそに戻って行ったホンゴウにつむぎは絶望しそうになった。
しかし、帰り際シャンクスに何かを言っていた。
｢船首の方が広く見えるからそっちに行くか。｣
｢……行く…………｣
広い船の上。
ブカブカの靴では歩きづらくて後ろをついて行くのがやっと。
それでもやっとの思いで追いついて、見上げた空はさっきよりも大きくて。
｢こんなに綺麗な空……初めて見た。｣
そう喜ぶつむぎ。
シャンクスにとってはいつもと変わらない星空でも、つむぎにとっては心から喜べるほど綺麗な空。
これだけでも、どれだけ辛い思いをしてきたのかがすぐに分かる。
空を見上げる事さえ出来ないほどに、つむぎは苦しんできたのだと。
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作者名：こゆん | 作成日時：2022年9月2日 19時
