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喋らないつむぎに眉を顰める男たち。
あちらこちらでヒソヒソと話す声が聞こえている。
沢山の声が聞こえ頭の中がグルグルする。
人より敏感な耳は、大勢の人の声を聞くと頭が痛くなり、時には目眩すら起こす。
人が沢山いる場所でも意識を外せばどうって事もないのだが、慣れない環境に上手く意識を外せなかった。
無理に意識を外そうと握った手は無意識のうちに爪で皮膚を裂いていた。
海の上というのもあり、時々風が通り過ぎる。
そして一際大きな風が吹き、銀髪のオールバックの男の吸うタバコの煙でむせてしまった。
少し咳き込んでいたら、目の前に大きな影が出来た。
驚いて顔を上げると目の前にいたのは金髪で額に傷のある男。
焦って後ずさろうとしたが、掴まれた腕で動けなかった。
｢……握りしめすぎだ。血がでてんぞ。｣
｢……っ！｣
そう言われて視線を落とすと血が数滴、自分の手から落ちていた。
言われて初めて握りしめすぎていることに気がついた。
｢あとベックマン、タバコやめろ｣
そう言われてすぐにタバコを消した。
タバコの煙が来ないように盾になってくれていたらしい。
｢まあ事情もあんだろ。そんな、固くなんなよ。｣
今もすぐに離れたいが、何も言わずに手の手当をしてくれていたので、大人しくそれを受け入れた。
やっと肺のそこから息ができた。
この男が盾になってくれたおかげで少しだけ視線が和らいで硬直した身体から力が抜けた。
その反動で柄にもなく目からはポロポロと涙が出た。
｢こんな大勢の野郎どもに囲まれりゃそら怖かっただろうよ。｣
｢っ……｣
みっともなく流れる涙は本当に怖かったのだろう、止めようと思っても止まらなかった。
袖で拭っても拭っても後から後から流れてしまう。
｢あんまり擦ると赤くなるだろうが……海風は身体に悪ぃから、とりあえず医務室に行こうぜ。話はそれからだな。｣
｢ホンゴウ勝手に…｣
｢自分の手ェ握りしめて怪我してる事すら気がつけねぇやつに何警戒すりゃいいんだよ。｣
ズキズキと痛み出した手が、これが現実なのだと物語っている。
私はほんとにいったいどこに来てしまったのだろうか。
ホンゴウにつられて立ち上がったが、自分が裸足だった事を思い出した。
｢その足じゃ甲板歩くには危ねぇな。ちょっと我慢してくれよ？｣
気がつけばホンゴウと呼ばれた男に俵かつぎされていた。
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作者名：こゆん | 作成日時：2022年9月2日 19時
