壱馬 ページ29
残る王子はあと一人。
壱馬さんというらしい。
一年中雪が降る国の王子様。
街のはずれの別邸に、一人で暮らしているんだって。
…どうしてなんだろう?
扉をノックすると、銀髪の青年が現れた。
「はじめまして。Aです。」
『…、…はじめまして。』
「壱馬さんですね?」
『あぁ。』
久々にちょっと無愛想な王子だ。
氷でできた王冠を頭に乗せている。
太陽の光が反射して、宝石のようにきらきらして見えた。
もしかすると、壱馬さんは氷を操れるのかな?
『寒いでしょ。入って。』
「お邪魔します。」
別邸の中を歩き、リビングへ案内された。
物が少なく質素。
机の上には何冊か本が置いてある。
本が好きなのかな?
ソファーに並んで座り、暖炉の火をぼーっと眺めた。
『…。』
「…。」
静かな時間が流れていく。
「壱馬さんはどうして、一人でここに?」
『魔力が強すぎて城を追い出された。』
「え…。」
予想外の答えだった。
『まぁ、こんな風に。』
「きゃっ?!」
氷の手錠をかけられた。
『使い方によっては危険だからな。』
「と、取ってください!」
冷たい!
重い…っ。
って、あれ…?
壱馬さんは、寂しそうな目をしている。
壱馬さんは、…。
悪い魔法使いってわけじゃないみたい。
壱馬さんの指が触れると、手錠は細かい雪の結晶になって空気に溶けた。
「その、王冠も…?」
『氷魔法だ。』
「とても綺麗です。…素敵な魔法じゃないですか。」
『ありがとう。』
ほんの少しだけ心を開いてくれた気がした。
しばらくの沈黙の後、壱馬さんが私を呼ぶ。
『こっち。』
「あ、はいっ。」
着いてこいって意味だよね?
どこかに連れていってくれるのかな。
その背中を追いかけた。
扉を開けてくれたので、先に中に入る。
ガラス張りの広い部屋。
「ダンスホールですか?」
『そう。昔はよく使われてたらしい。』
床がパキパキと音を立てて凍っていく。
「わっ!?」
『スケートはしたことある?』
「あ…。少しだけなら。」
魔法のスケート場…!
すごい。
パンプスのヒールに、魔法で氷のブレードをつけてくれた。
壱馬さんが差し出した手に掴まって、氷の上に一歩踏み出す。
慎重に…。
「ひゃあっ!」
『うわ、危ねっ。』
壱馬さんがすぐ抱きしめてくれたから、転ばずに済んだ。
『気を付けろ。』
「はい…。」
待って。
どきどきが止まらない…っ。
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作者名:If | 作成日時:2022年8月7日 8時