#111 ページ4
.
>>あ、ごめんね。仕事あるから無理かも [20:18]
トーク欄に表示されたたった一文。
2017年最後の1日、カウントダウンライブに来ないかと梓に聞いて、返ってきた返事。
向こうにも予定があるのは分かってるし、しょうがないのも知ってる。
でもやっぱり断られるのは予想してなくて、悲しくなった。
"会いたい"と打って、すぐに消す。
年末に加えて、仕事の引き継ぎの関係もあって梓は仕事で忙しいらしい。二日に一回のペースでの夜の電話は、今じゃ週一でできたらいい方だ。
"忙しい" "ごめん" 。そんな言葉はもう見飽きた。俺が何かに誘うたび、謝罪しか来なくなった。
「……俺も頑張らなきゃ」
2017.12.31−2018.01.01
そらまふうらさかでやったカウントダウンライブはあっという間で、楽しかった。
だけど、心の隅ではやっぱり寂しかった。
【1月】
来月いっぱいで仕事を辞めるため、長期にわたる仕事が与えられることがなくなった梓は結構な頻度で東京にやってきた。
事務的な、1日で終わるような仕事ばかりで少し寂しいと感じてること。仕事の引き継ぎも終わり、名古屋を離れる実感が湧いてきたこと。
作業をする俺を横目にゆっくりと話す梓。
梓が俺の家でやることは、大抵家事ばかりだ。作り置きの料理、洗濯、掃除。
やらなくてもいいと、いつも言ってるのに。
一通りの家事が終わったら、俺の作業が終わるまで最近買ったという液タブを使って絵を描いている。真冬に頼まれた依頼絵の納期がもう少し、なんだとか。
ふと、前から考えていたことを思い出した。
「あのさ、梓。」
『何?』
「東京来たらしばらくはこのマンションに住むでしょ?」
『そうだね。』
「いっそのことさ、家買おうよ。」
『…え?』
「この部屋、一人暮らしするために買っただけだから…2人で住むには狭いんだよね。だから、梓がこっちに引っ越すタイミングで俺も引っ越そうかなって。」
『そっか…、私は別にいいけど……』
「じゃ、家見に行こう?」
『うん』
「この作業終わるまで待っててくれる?そのあと、予定立てよ」
『わかった〜』
梓が液タブを持ち直したのを確認して、俺もキーボードに向き直る。
静かな部屋にカタカタとタイピングの音が響いた。
.
342人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ