#121 ページ15
.
帰ってすぐに俺はタイアップのための楽曲制作を始めた。納期はまだ先とはいえ早めに進めておいて損はないだろう。
そう思ってるのに、最近眠れていないせいで頭痛がして、作業が思うように進まなかった。
梓が心配そうに見つめてくるのを無視して、入るなとでもいうようにドアを閉めた。
パソコンには、有害リスナーがいるというリスナーからの報告メールがいくつも届いていた。
過去と同様にブロック作業を続けているのに、新しいアカウントを作ったりしているのか増えていくばかり。
いろんな人から心配されたり、叱責された。
こっちは、もういっぱいいっぱいなのに。
______
____
__
どれくらい経ったのだろうか。
やり直して、やり直しての作業の連続で疲れた。パソコンの画面を見つめていると、音もなくドアが開いた。
薄暗い俺の部屋の中、リビングから漏れる光が梓を後ろから照らしていた。
俺の体調が悪いことに気がついたのか、梓は俺に何かを言う。
"最近寝てないんでしょ"
"無理しちゃだめだよ"
眠れていないのは不本意で、無理をしてでも今この現状を直していかないといけないのに。
心配してくれる言葉が、逆に刃物のように突き刺さる。
心配の言葉ですら追い詰められていた俺には届かなかったようで。
『ちょっと、』
「うるさいな…放っておいてよ」
『え、』
「自分の限界ぐらい分かってるし、これは仕事なの。梓には関係ないでしょ」
真っ黒だった目の前がひらけたとき、最初に映ったのは、なんとも言えない……ショックを受けている梓の顔だった。
"自分の限界ぐらいわかってる"って言ったっけ。……全然わかってないじゃん。
「ごめ、」
『ううん、私こそごめんね。えっと…仕事、頑張って』
これ食べていいから、とおにぎりが2つ乗ったお皿を机の隅に置いて、梓はドアを閉めていった。
ため息がこぼれた。
いくら自分が疲れてるからって、俺の事情を知らない梓にイライラをぶつけるのはだめだろ。
明日、ちゃんと謝らなきゃ。
一度心の内で ごめん、と謝って遅めの夕食に手をつけた。
.
342人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ