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『部長、これお願いします』
始業時間までまだ30分ほどある頃、【退職願】と書かれた封筒を部長の机に置いた。
それを見た部長は細かったはずの目をまん丸とさせて私を見てきた。
『結婚するんです。3月には…東京に戻る予定です』
「そうか…。仕事は?」
『向こうで新しく探すか、もしくは在宅の仕事をやると思います』
「…あぁ、それなら立花。」
自身のデスクの引き出しを開けて、部長は何かが書かれた紙を私に見せてきた。
白く、ピンとした紙に黒い字がつらつらと並べられている。
「本社へ配属してくれるやつを募集してるんだよ。本社なら東京だし、立花も仕事先を新しく探す必要ないだろう」
『いいんですか?』
「優秀な立花なら本社は喜んで引き抜いていくだろうよ。どうする?」
『じゃあ、お願いします』
「あぁ。3月までは
『はい』
返された退職願を受け取り、自分のデスクに戻ろうと振り返れば、ちょうど部署のドアを開けた船山先輩と目が合った。
船山先輩は私の持つ退職願を見て、部長と同じように目を丸くした。
「おはよう、梓ちゃん。えっと、それ…」
『退職するんじゃないんです。3月からですが、東京の本社に行くことになったんです』
「え、」
ここではあれだから、と船山先輩をデスクまで連れていく。私の答えを探すように船山先輩は私をじっと見据えた。
『報告が遅れてしまってすみません。…彼方と、婚約したんですよ』
「えっ、そらるさんと?いつ?」
『先月の3日に。来年の3月から東京で彼方と暮らします。』
「そっ、かぁ……」
デスクの上に置かれた私の左手の薬指、そこにある婚約指輪を一瞥して船山先輩は嬉しそうに笑った。
「おめでとう、ほんっまにおめでとう…」
私の頭を優しく撫でながら、船山先輩は何度も何度も祝ってくれた。
始業のベルが鳴る。
鼓動が少し早くなったのを感じながら、私は自分のデスクについた。
部長が1日の目標と、私が3月から東京に戻ることを全員に伝え、そのまま1日が始まった。
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こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
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