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「はあ!?別れた!?」
静かな喫茶店で小さく響く翔太の声。
その顔は心底信じられないというような表情で、隣に座る真冬も開いた口がふさがっていなかった。
無理はないといえば、無理はない。
付き合っていた時は不本意ではあったが、バカップルだと茶化され、別れることはないだろうと言われていた。
それがこうなってしまったんだ。俺だって信じたくない。
「どうして別れたんですか」
真冬が聞いてくる。
嘘をついたら見透かされそうな目がじっと俺を見ていた。
「こう言ったら、言い訳になるかもしれないけど…」
炎上事件のこと、歌い手活動を行う上で梓との関係が障害になるかもしれないということ、それこそ危険な目に合わせるかもしれないということを伝えた。そして…
「梓のこと、もう好きじゃないんだ」
一つだけ、嘘をついた。
翔太は少し納得のいかないような顔をしていたけど、真冬は俺から何かを感じたのかすぐに「そうですか」と返してくれた。
「ごめん、」
俺がそう言うと、2人は困ったように笑った。
でもその目は優しそうだった。
1年後…
〜梓side〜
入社して一年が経った頃。
上司に呼ばれて手渡されたのは一枚の紙だった。
何かと聞けば、説明をされた。
「本配属先の希望届。入社して一年経ったら、本配属をするとこの希望届を出してもらうんだよ。」
『はい』
「第2志望まで書いて俺に出してくれ。かといって、必ずしも第1志望のところに行けるとは限らない。まあ、立花は優秀だからな。上の奴らは優先的に考えてくれるだろ」
『わかりました』
上司と別れて、デスクに戻った後まじまじとそれを見る。
東京の本社から出る気はあまりないし、第1志望は東京でいいか…と考えていると、隣に座っていた
「立花さんも渡されたんだ、それ」
『はい』
「懐かしい〜。私も2年前にそれ渡されたよ」
『そうなんですか?』
「うん。私、名古屋出身でね?その時は名古屋の方にそのままいたんだけど…2年目で
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