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〜そらるside〜
___2014.03.21
テレビの天気予報、女性予報士が、今日は一日中快晴だと告げる。
" 今から梓の家に行く " というメッセージを梓とのLINEに入れてそのまま家を出た。
いつもならバスを使う梓の家への道も、今日は歩いた。閑静でおしゃれな住宅街を抜けて、大通りへ。そこからまたしばらく歩くと、1時間くらいで梓の家に着いた。
「……ふう」
インターホンを鳴らすと、はーい、という聞き慣れた声。
ガチャリと鍵があいた音がして、ドアから梓が顔をのぞかせた。
眩しい笑顔だった。
「今日、ご両親は?」
『あぁ…みんな出かけてるの。』
「そっか」
はい、とお茶の入ったコップが目の前に置かれた。最近新調したというダイニングテーブルからは木の匂いが香った。
梓が向かいに座る。
『それで、いきなり家に来たのはどうして?』
「えっと…」
何も知らない梓のまっすぐな目が俺を見つめた。その目に俺の決意は情けないほど崩れそうになって、"なんでもないよ"と言わせようとする。
でも、それじゃいけない。
口からこぼれそうな
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「……梓、別れよう。友達に戻ろう」
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空気が張り詰めた。
梓は目を見開いて、ぽろ、と涙が一筋頬を伝った。
抱きしめたくて、嘘だと言いたかった。でも言えなかった。
もう戻れないとわかっていたから、俺は準備していた
「歌い手として…最近人気が出てきたし
まふまふとユニットを組むことになったから
歌い手業に専念したいんだ」
泣きそう。
苦しい。
それでも、言葉は止まらない。
「だから梓のこと構ってられないかもしれないし…迷惑をかけることになる」
梓の存在がバレて、歌い手業に支障が出るのも、梓に迷惑をかけるのも嫌なんだ。
それがわかってるから、俺はこの選択をしたのに、胸が張り裂けそうになる。
『私は…それでも…』
消え入りそうな梓の言葉。
やめて、それ以上は言わないで。
「ごめん」
ぽつりと謝罪の言葉が、俺の口からこぼれた。
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