#102 ページ28
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プシューと息を吐いて、ドアが閉まる。
ゆっくりと走り出した新幹線を一瞥して改札まで歩き出した。
改札を過ぎて、外に出れば少し空気が違うように感じた。
「梓さーん、こっちです。」
『ちかさん…、わざわざすみません』
「いえいえ。ほんとはそらっさんが迎えに行きたがってたんですけど…リハーサルが被ってて…」
『それは、しょうがないですね〜』
車まで案内されてそのまま乗り込む。
きっとちかさんだから、彼方は迎えに行くのを許したんだろうな〜だなんて呑気に考えながら、窓から流れていく外を眺める。
「ついにそらっさんも29歳、三十路ですね〜」
『あれ？ちかさんって…』
「…そらっさんより先に三十路迎えてます」
照れたようにはにかむちかさんについ笑ってしまった。
「着きましたよ〜。これ、首からかけてくださいね。関係者の通路はあそこにあるので、あそこから入ってください」
『はい、ありがとうございます』
［関係者］と書かれた名札を首からかけて、もう集まってきているリスナーさんに見られないように足早に関係者用のドアを開けて入った。
そろそろ控え室に着くかと考えた時、 向こう側からバンドメンバーの人達と一緒に歩いてくる彼方がいた。
私が小さく手を振ると、彼方は数回瞬きをして駆け寄ってきた。そしてそのまま私は安心する匂いに包まれた。
『リハーサル、お疲れ様』
「うん、ありがとう。でもまだやることあるから、また会場に戻るよ。」
『そうなの？見てもいい？』
「いいよって言いたいけど、だめ。控え室で待っててくれる？すぐ戻るから。」
『…わかった』
もう一度私を抱きしめて、彼方は微笑む。控え室はこっち、と手を引かれた。その手は熱くて、どこか強張っていた。
控え室に私を案内すると、彼方は足早にバンドメンバーを連れて会場に戻っていった。
いつもなら「リハ見ていって」と誘ってくれるけれど、今日は断られた。
気になるのは勿論だけど、彼方が見てはいけないというのならやめておいた方がいいのだろう。
『早く戻ってこないかな、』
ぽとりと落ちた言葉に返事はなかった。
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