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二ヶ月後…
彼方と一緒に過ごした日から二ヶ月ほど経った11月1日。
あの後会社に出勤すれば、怖い顔をした船山先輩に「無防備だし、危機感が無さすぎる。」「心配した」と怒られた。返す言葉もなかったので心の底から謝罪をすれば、「無事でよかった」と笑ってくれた。
警戒していた相手である楠さんは別件の仕事で東京の本社に呼び戻されたようで、ホッとした。
あの日から二ヶ月経ったと思うと、時間は過ぎるのが早いなあというのが今の気持ちだ。
まあ、もう11月だから次から次へとやることは増えていくのだけれど。
普段は楽しいランチタイムの喫茶店だが無意識にため息が溢れる。
「なんでため息?…あと、話聞いてたの」
少し影のある気だるそうな声が、心配そうに私に話しかける。
その声の持ち主は湯気のたったココアにミルクをぽとりと垂らして、呑気にスプーンでかき混ぜていた。
『明日には広島に行かないといけないのに、ここにいていいの?彼方。』
「別に大丈夫〜」
そんなことより、と彼方は身を乗り出して私の目をジッと見つめる。
「11月、土日空いてる日あるのかって聞いたのに…やっぱり梓聞いてなかったんでしょ」
『あはは…ごめんなさい』
「まったくもう。で、土日空いてる日ある?」
『基本祝日と土日は休みなので大丈夫だからご安心を。特に、明後日の11月3日はね』
「ふふ、よかった」
それを聞いた彼方は満足そうに、
11月3日が誕生日の彼方は、当日広島でワンマンツアー初日を迎える。当然のように休みを取ってしまったけど、広島についていくわけではないため仕事を入れた方が良かったのではないかと少し後悔している。
『いいな、広島』
「え?」
『ん?』
「梓、広島に来てくれないの…?」
眉を下げる彼方。
いつ、私が広島に行くと口にしたのだろうか。
『だって、チケットだって持ってないし…広島まで行くお金も…』
「もし、もしだよ。」
彼方が鞄から白く薄っぺらい封筒を取り出して、私の前にスッと滑るように置いた。
「ここに、広島公演のゲストパスと新幹線のチケットがあるって言ったら……梓はどうする?」
『え…』
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