#98 ページ24
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くたり、と糸の切れた人形のようにこちらに倒れこんできた梓の体。
それをまた横抱きにして、ソファーに横たわらせた。
梓は、こうでもしないと "息ができなくなる" から。大丈夫、という言葉を誰かに言うのではなく自分に言い聞かせて、抱え込んで、気づかないところで限界がきて、壊れてしまうから。
「あと、もう少しだけ待ってて」
もうすぐで、側にいられるようになるから。
すぐに頼ってもらえるようになるから。
「空回ってばっかだなあ、俺」
時計を確認して、梓の勤めてる会社に「梓が体調不良なので今日は休ませる」という旨の電話をした。
本当は今日、東京に戻って残ってる作業を少しでも進めないといけないんだけど。
ちかに、事情を説明して名古屋に残るしかないよな。
そこまで考えて、俺はスマホを手に取った。
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『ん〜!美味しい!』
目の前では梓が美味しそうに俺の作った昼ご飯を食べていた。
結局梓が目を覚ましたのはお昼過ぎ。
「今日と明日は梓をめいいっぱい甘やかす日だから」と伝えれば、控えめに梓の口から紡がれたのは
『ぎゅ、と抱きしめてほしい…』
という可愛い小さなお願い。
あまりに可愛すぎて緩んでしまう頬を精一杯引きつらせ、梓の細い体を力一杯抱きしめた。
「ん、好き、好きだよ梓」
『ちょ、え、』
「かわいい、好き、愛してる梓」
啄ばむように唇以外にキスを落としていたら、最後には顔を真っ赤にした梓に体を引き離された。
それすらも愛おしくて、目を細めた。
ごちそうさまでした。
という丁寧な声に現実に引き戻される。目の前には空になった食器。
美味しかった?
と聞けば、すごく美味しかったと返ってくる。
「ほんと、梓は俺が作った料理を美味しそうに食べてくれるね。どっちかっていうと、今じゃまふまふの方が料理うまいと思うんだけど」
『何言ってるの?好きな人が作ってくれる料理が1番美味しいに決まってるじゃない。』
「お世辞をどーも」
『そんなこと言ってるけど、耳が真っ赤だよ』
梓にそう指摘されて、思わず両耳を塞いでしまう。
おかしそうに笑う梓をじとりと見つめると、眉をハの字にして謝られた。
…俺がそれに弱いの知ってるからね。
『ところで、彼方さん。』
「はいはい。何ですか」
『…このあと、空いてますか』
人差し指をそっと触られる。
「…ん。」
俺が頷くと、梓は恥ずかしそうに笑った
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