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ちょうど彼方の作ったご飯を食べ終わった頃、寝室の方から物音がした。
そしてすぐにドアが開く。
『おはよう、彼方』
「…っ梓、!おはよ…あの、具合悪くない…?」
『うん、大丈夫だよ』
私がそう言うと、彼方は顔を綻ばせて肩をなでおろした。
そのまま私に近づいて、ぎゅう と抱きしめる。
「よかった…心配した」
『えへへ…ごめんね』
「無理は禁物、あと隠し事も無しだよ。」
『……バレてたか』
呆れたように笑って、彼方は私の頭を撫でた。
「昨日倒れたんだから、仕事は休むでしょ?」
『え…っと、休むつもりなかった…』
「……」
彼方が私をじっと見つめる。
どうして、というように。泣きそうな目をして。
「どうしてそんなに働こうとするの」
『え?』
「なんで…」
『かな、た…』
「…っ梓は自分のこと大切にしてるの!?」
私は何も返事できなかった。
ハッとした彼方は、すぐにごめんと謝ってくれる。
…違う。
謝るのは、私の方。
『ご、ごめんね彼方…私、やらなきゃいけない仕事とか溜まってるし、えっと、楠さんのことなら大丈夫だと思うから、』
「…昨日、」
『きのう…?』
「あの人、楠って人から…梓が仕事してるのは俺のためだとか…言われて。」
俺ってそんな頼りなさそうかな、と消え入りそうな小さな声で彼方は呟いた。私を見る目は潤んでいて、悲しげに揺れている。
「聞かせてよ」
『…なに、を』
「梓がそこまで働く理由は?…自分を大切にしない理由は?自分が危険な状況にいるの、わかってたんでしょ?どうして、」
彼方が伸ばした手は、私の腕を掴む。離さない、と彼方の目が囁く。
優しい、大好きな声なのに胸がきゅ、と痛くなる。
わかんない、わかんないよ。
震えた声が口から
ああ、間違えたんだ私。あなたが望む "
わからない という気持ちが言葉になって、最後に涙に変わった。
『…っ、う…ごめ、なさ…』
怖い
彼方はしばらく私を見つめた後、もう一度抱きしめてくれた。ぽん、ぽん、と優しいリズムで頭を叩く。
「ごめんね、俺、怖かったよね」
『う、ん』
「でもね、梓。梓が、どうしようもなくて、困ってたりしてたら、俺は力になりたいの」
『、ぅん』
「抱え込んじゃ、だめだよ」
『ごめ、ね』
「ん。」
彼方は小さく笑って、額にキスを落とした。
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