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#97 ページ23

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ちょうど彼方の作ったご飯を食べ終わった頃、寝室の方から物音がした。

そしてすぐにドアが開く。


『おはよう、彼方』

「…っ梓、!おはよ…あの、具合悪くない…?」

『うん、大丈夫だよ』


私がそう言うと、彼方は顔を綻ばせて肩をなでおろした。
そのまま私に近づいて、ぎゅう と抱きしめる。


「よかった…心配した」

『えへへ…ごめんね』

「無理は禁物、あと隠し事も無しだよ。」

『……バレてたか』


呆れたように笑って、彼方は私の頭を撫でた。


「昨日倒れたんだから、仕事は休むでしょ?」

『え…っと、休むつもりなかった…』

「……」


彼方が私をじっと見つめる。
どうして、というように。泣きそうな目をして。


「どうしてそんなに働こうとするの」

『え?』

「なんで…」

『かな、た…』





「…っ梓は自分のこと大切にしてるの!?」




私は何も返事できなかった。

ハッとした彼方は、すぐにごめんと謝ってくれる。
…違う。
謝るのは、私の方。


『ご、ごめんね彼方…私、やらなきゃいけない仕事とか溜まってるし、えっと、楠さんのことなら大丈夫だと思うから、』

「…昨日、」

『きのう…?』

「あの人、楠って人から…梓が仕事してるのは俺のためだとか…言われて。」


俺ってそんな頼りなさそうかな、と消え入りそうな小さな声で彼方は呟いた。私を見る目は潤んでいて、悲しげに揺れている。


「聞かせてよ」

『…なに、を』

「梓がそこまで働く理由は?…自分を大切にしない理由は?自分が危険な状況にいるの、わかってたんでしょ?どうして、」


彼方が伸ばした手は、私の腕を掴む。離さない、と彼方の目が囁く。
優しい、大好きな声なのに胸がきゅ、と痛くなる。

わかんない、わかんないよ。

震えた声が口から(こぼ)れる。彼方は口を噤んだ。

ああ、間違えたんだ私。あなたが望む "返事(こたえ)"を。
わからない という気持ちが言葉になって、最後に涙に変わった。


『…っ、う…ごめ、なさ…』


怖い


彼方はしばらく私を見つめた後、もう一度抱きしめてくれた。ぽん、ぽん、と優しいリズムで頭を叩く。


「ごめんね、俺、怖かったよね」

『う、ん』

「でもね、梓。梓が、どうしようもなくて、困ってたりしてたら、俺は力になりたいの」

『、ぅん』

「抱え込んじゃ、だめだよ」

『ごめ、ね』

「ん。」


彼方は小さく笑って、額にキスを落とした。







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作者名:MiKU | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年4月6日 22時

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