#95 ページ21
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〜そらるside〜
会社に着いたのはいいけど、梓にメッセージを送っても既読がつかない。
「会社の中入っても、大丈夫かな…」
昼に比べて人の気配がなくなった梓の会社の中を歩く。
……不法侵入で捕まりませんように。
それを願いながら、少し暗くなった社内を歩く。
「確か、営業部だっけ…」
エレベーターの中で、営業部のある階を確認してボタンを押す。
嫌な予感がしたが、頭を振って誤魔化した。
静かにエレベーターのドアが開く。
一歩前に出てみれば、微かに明かりが漏れる場所が目に見えた。
廊下側はガラス張りのようで、部署内が一望できる。
明かりが漏れる場所の近くまで行くと、一台のパソコンがついていた。
そしてその側には…
「梓…?」
壁にもたれてへたり込んだ梓と、こちらを一瞥する冷たい目をした男がいた。
急いでそこに駆け込むと、男はくすりと笑う。
「梓ちゃんの彼氏さんじゃないですか〜」
「…誰。」
「どうも。企画部の
人を食ったような喋り方に嫌悪感を覚える。
でも今は、
「…っ梓」
壁にもたれて座り込んだまま、梓は返事をしてくれない。
瞳は閉じていて、顔色も悪い。
キッと楠という男を睨むと、冷たい目がこちらを見ているだけだった。
「あー、梓ちゃんがそうなったのは俺のせいじゃないですよ?俺がきた時にはこうなってたってゆーか。」
「…そうですか。」
どうせ嘘に決まってる。
眠っている梓の背中と膝の裏に腕を入れ、そのまま横抱きにする。
「あの、一ついいですか?」
「何ですか」
「梓ちゃんのこと、幸せにできてるんですか?」
「はあ?」
おー怖い怖い、だなんて笑う其奴から目が離せない。
「音楽関係の仕事をしていると、梓ちゃんから聞いたんです。でもやっぱり、音楽関係の仕事って収入がまばらじゃないですか。」
「……」
「こんな夜遅くまで仕事してるのって、あなたのためなのかなーって思ったら少し可哀想に思えてきたんですよ。」
「何が言いたいんです?」
それを待ってましたと言わんばかりに口はあやしく弧を描く。
「あなたより、僕の方が相応しいんじゃないかと思いましてね」
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