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〜センラside〜
"じゃあどうしてそんな梓ちゃんのセコムやってるわけ?"
どうして、って……。
それに答えられなかった自分に嫌気がさす。
建前の理由なら、言える。
東京に住んでる彼方さんの代わりに梓ちゃんを守るためって。
でもそれは…俺が、梓ちゃんの側にあるための一番有力な理由であって、ただの"欲"だ。
「さいっあく……」
胸がモヤモヤとしたまま、その日は眠りについた。
翌日
ライブのせいと、歳をとったせいで体の節々が痛む。
事前にとっておいた休暇を満喫しようとテレビをつけたが、面白そうな番組はやっていない。
…しょうがないから、外に出よう。
「あっつー」
半袖でも夏はきつい。
普段、営業で外を回っているからか休日でも動かないと落ち着かないし。
行く先を決めていなかった自分の車は、自然と会社の方に向かっていて。
忘れ物を取りに来ました、とか言ってオフィスに向かおうかなとか考えて、持っていたカバンに社員証が入ってるのを確認して外に出る。
ガー、と開く自動ドアを通り過ぎれば、案内用のカウンターの前に細身の男性が立っていた。
ふわふわとした黒髪に、白い肌。
「そら…るさん?」
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「久しぶりだね、センラくん」
そうやってそらるさんは微笑む。
やはりカウンターで受付嬢と話していたのはそらるさんだった。
梓ちゃんがいるかを聞いていたようで、「今は外回りをしているのでいない」と言われていた。
「どうして、
「んー。こっちで今度、ワンマンライブツアーするからさ。それの打ち合わせ…みたいな。」
「そうなんですか」
「うん。梓の家に、泊めてもらおうかな…って」
言うのが恥ずかしくなったのか語尾に連れてそらるさんの声が小さくなる。
名古屋にある梓ちゃんの家に一度も行ったことがないと、苦笑しながらそらるさんは説明してくれた。
「梓がいないならいいや、帰ろうかな」
「待ったらいいじゃないですか」
「あはは、そうだね。…でも、俺も暇じゃないんだ」
やることがまだあるんだ、と遠くを見つめるそらるさん。
"忙しいなら、早く帰ったほうがいい。"
"それに、
楠さんを見なくて済むだろうから"
俺は、その言葉を言えずにいた
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