つよいひととこわいひと (ページ7)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:1,537 hit

杏の華ページ7

物心がついた時から、私は兄とずっと一緒だった。
家族なんだからずっと一緒なのは当たり前なのかもしれないけど
一緒に遊ぶ友達ができるまでは、いや、できても兄と過ごす時間はそんなに
変わらなかった。

食べたいお菓子を買ってきてくれたり休日には一緒にでかけたり、
すぐに叶えられるようなわがままはなんでも聞いてくれた。

小さいときは何も思わず、優しい兄だな、とは思っていたけど
だんだん物事の理解が深まる年齢になったとき、ふと疑問に思った。

なんでこんなに優しいんだろう

年の離れた妹だから？もちろんそれもあるだろうけど、もっとれっきとした理由があるはずだ。
それが気になった当時小学校高学年だった私は兄、並びに両親の腹の底を知ろうとした。

その理由はすぐに分かった。

両親が兄を海外で活躍するようなエリートにするべく、小さいときからとても厳しい教育を
施してきたこと。

私も同じように育てようとしていたこと。

兄がその教育に幼い私が耐えられないと危惧して、自分が積極的に私の世話を
すると両親に宣言したこと。

兄が日々のストレスの捌け口として私を溺愛していたこと。

もっと気付くのが遅ければ、私は兄がいなくては生活できないようになってしまっていた
かもそれない。

その日から今まで兄にしてもらっていたことを自分でやりはじめた。

すると奇跡的なタイミングというべきか、大学を卒業した兄が2年間フランスに
滞在することになった。

フランスに旅立つ日が近付くにつれ兄の私への対応は度を増していく。
そんなに私と離れるのが嫌なのか、その様はまるで依存しているかのようだった。

あまりの過保護さに今までずっと隠してきた思いがついに言葉となって口から出ていく。

「私はもう赤ちゃんじゃない、私は私のやるべき事をやる！」

十数年間共に過ごしてきた中での初めての反抗。兄は唖然とした顔で私を見つめていて、
しまった、と思った。もし兄の心の拠り所である私が兄を拒絶したら、兄は、
凪疋はどうなってしまうのだろうか。

おそるおそる見つめ返せば、兄は表情を和らげて微笑んでいた。

「…良かった、杏華がちゃんと自立していて
　ずっと不安だったんだ自分のせいでいつか杏華の将来が台無しになって
　しまうんじゃないかってでもそんな姿を見せられたらもう僕にできることはないね」

兄はそう言って目線を合わせ、私の頭を撫でた。