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自分が傷つく直前、人間は痛みを想像して感覚が鋭敏になる。

前にどこかで知った人体の知識。私は今、まさしくその状態だった。
怖くて怖くて目を瞑る。

でもそんなもので恐怖が紛れるわけがない。むしろ視覚がシャットアウトされたことで
他の感覚がさらに研ぎ澄まされる。


トラックの音がさらに大きく、至近距離で聞こえた。
次にくる衝撃を想像すると、一瞬で全身に鳥肌が立ち、大量の汗が出てきた。


……嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ!

死にたく、ない、死ぬのは嫌だ!


知性の欠片もない、子どものような駄々を捏ねる。
そんなことをしたところで何も変わらないのに。





ぶつかったと思った。

鉄の塊と衝突して、私の体の骨は砕け内臓が潰れ、数メートル先まで吹き飛ばされると思った。


覚悟ができていないまま、短い人生の終わりを迎えようとしていた私を襲ったのは、
前からの衝撃ではなく、横からの衝撃だった。

衝撃といっても何かがぶつかるようなものではなく、何かに押されたような感覚。

私の体はそれをもろに受けて、左に傾く。それすらもとても遅く感じた。
一体今のは何だったのか、正体を確かめるために閉じていた瞼を開ける。


今まで私が立っていたところに入れ替わるような形で誰かがいた。

顔も名前も知らない、赤の他人だった。

見た目は三十代位の女性で、体は私の方を向き両手をこちらにつきだしている。


私は、この人に押された?


ゆっくりと時は進んでいく。私がアスファルトに尻餅をついたと同時に、


トラックはその女性と衝突した。


形容しがたい、全ての骨が折れる音、体のありとあらゆる場所から溢れ出る鮮血。

今までずっとゆっくりだった時は、その人が吹き飛ばされる瞬間に元に戻った。


目の前から一瞬で消えるように移動した女性の体は地面に落ちると、スピードを全く
落とさないトラックに轢かれて、嫌な音を立てる。


そしてそのままトラックは走り去っていった。



一連の出来事に通行人は悲鳴を上げ、信号が青にも関わらず自動車は止まっている。


私はただ一人、何もできずに道路に座り込んでいた。

ふと自分の手の甲を見ると赤い液体が付いている。
私のじゃない、私は怪我を負っていない。

見るべきものじゃないのに、私の視線は女の人だったものに向いていた。
すると、女の人の側に人が、子どもが立っている。


「おかあ、さん……?」

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廣岡唯 - ワァオ (4月22日 10時) (レス) @page12 id: 4e6dbece94 (このIDを非表示/違反報告)
次亜塩素(プロフ) - わぁ (2020年12月14日 16時) (レス) id: c196843a04 (このIDを非表示/違反報告)
すいみん不足(プロフ) - わぁ (2020年12月14日 15時) (レス) id: bcd5c44fa2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:次亜塩素 x他1人 | 作成日時:2020年12月5日 1時

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