つよいひととこわいひと (ページ35)

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「こーら、こんな夜に子ども一人で出歩いちゃダメでしょう」

うつ向いている子どもに近づいて声をかけた。
思っていたよりも、近付いてみると小さく180ほどある私の腰ほど。

その小さな頭には少しホコリを被ったフリルが覗く、ボンネットと呼ばれる帽子。
着ている服も所々ホコリがあるが高級感が漂っている。どこもフリルがふんだんに
使われていて大きなリボンも付いている。

私を見上げる目はガラスのように透き通っていて、スカイブルーの瞳に私が鏡のように
写っていた。小さな右手には画面がひび割れて暗くなっているガラケーが握られている。

少し不気味だがまるで人形のような子どもだった。

「女の子が夜一人で外にいたら危ないでしょ？お家はどこ?」

「…わからない」

舌足らずな声でその子は呟いた。こんな格好の子どもを一人にするだなんて
親はどんな神経してんだか、この子が可哀想に思えて交番まで連れていってあげようと
思った。

「それなら、私が交番に連れていってあげるわよ」

「こー…ばん?」

まだ小さいからかわからないことも、伝えられないこともあるのだろう。

直接聞くより、心を覗いた方が早いか。
私はそう思ってゆっくり瞼を閉じる。そして目を開けた。

その状態で彼女を見つめる。すると、彼女の考えていることがどんどん頭に
流れ込んでくる。

数自体はそれほど多くないけどその一つ一つに込められている感情が強すぎる。
怨念、絶望、劣等感、ありとあらゆる負の感情は一気に脳に入り込んできた。

その負荷に頭が痛くなる。ずきずきと痛む頭を抑えながら、無表情で私を見上げる彼女を
再度見つめる。

流れ込んできた情報をなんとか整理して、彼女の正体や過去を把握することができた。

「…あなた、人間じゃないのね」

そのあと、さすがに交番に連れていくわけにもいかなくなり
とりあえず私の店に連れてきた。

明るいところで改めて見ると本当に人形なんだと実感した。

「まずは自己紹介でもしましょうか、私は高峰秀妓 (たかみねしゅうぎ)
　このお店、『BAR HANAMI』の店長をやっているわあ、あと生物学的には男よ
　元々は普通に男してたんだけどね、ちょっと前世のこと思い出して…って
　そんなことはどーだっていいのよ！貴女は？」

「メリーさん」

他に言うことがないのだろう、名前だけ言って私をじっと見つめた。

「メリー、さんね？とりあえずよろしくね
　それで、貴女はこれからどうしたい？メリーさん」