つよいひととこわいひと (ページ33)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:1,532 hit

4 ページ33

ハサミ、ものを切るときに使うもの。

女の子が使っているのを見たことがある。もしかしたら、これでビニール袋を切れるかもしれない。

私はハサミを掴んで、穴に指を通そうとしたが上手くいかない。

「こう…じゃ、ない」

心の中で呟いたはずなのに、なぜかはっきりと聞こえた。
ハサミをどうにかすることを止めてそちらに集中する。

今のは…私の、声？

試しに私が知っている言葉を言ってみることにした。

「いて、き、ます」「たた、いま」

「いたた、きます」「ごちそー、さま」

「おやすみ、なさい」

声の出し方がだんだんと分かってきて人間と同じように喋れている、気がする。
そういえば、知っている言葉がもうひとつある。

女の子が耳に細長いものを当てて、何かを喋っていた。
それが、電話というものだと、女の子は教えてくれた。
電話をするときには必ず「もしもし」と言うことも。

「もし、もし?」

あとは、それに続けて自分の名前も言うらしい。

「わ、たし、メリイ、さん」

なんか違う。

「メリ、イ…メ、リー…メリー」

「メリーさん」

言えた、嬉しい。できることが増えるって、嬉しい、楽しい。
自分ならできると思って私はハサミを握りしめた。

少し細い方をビニール袋に押し付ける。
するとだんだん細い方が袋にめり込んでいって、ビリッと音がした。
ハサミを抜くと、袋に穴が開いている。

まだ小さいからここから出ることはできない。
なら、この穴を大きくしよう。

穴の周りにさっきと同じようにハサミでいくつもの穴を開けた。
するとぎゅうぎゅうだった袋の中が少しずつ広くなっていく。

これでもっと体が動かせるようになった。そして、また体をバタバタと動かす。
するとビリビリと音をたてて体とおもちゃ達がどんどん外に出ていく。

ビニール袋の中から溢れたおもちゃに体が少し埋まっているが、それを
手でどけた。

やっと、出られた。

これでもっとできることが増える。

まずは、

あの女に私の思いを知らしめないと。

あの女のもとへ行こうと決心した。
その為にここから動かないと。人間は移動するとき、足を使って「歩いて」いる。
とりあえず、その場で立ってみようと思った。

足に力を入れて、手で体を支えて。
ゆっくりと膝を伸ばしていく。

時間が少しかかったけど立つことはできた。でも足ががくがくとして上手く立てない。
せっかく立てたのに、ものの数秒でまた座ってしまった。