つよいひととこわいひと (ページ28)

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その後、主に氷達先輩の活躍により任務を達成。
相変わらず体力がない先輩は先に車に戻ると言って、フラフラとしながら事務所を出ていった。

しばらくして諸々の処理が終わったので署に帰ろうと車に乗る。
助手席に座る先輩を見ればいつのまに買ったのか、カフェオレを飲んでいた。

「八重くんのもあるよ」

そう言って先輩はもう一つのカフェオレを俺に渡した。
短くお礼を告げて蓋を開ける。

疲れた体にほんのりとした甘さが身に染みた。
ふと先輩を見れば、味が気に入ったのかいつもよりニコニコとしながら
カフェオレを飲んでいた。

本当に、さっきとは別人のようだ。

今までのやりとりを思い出すが、多分先輩は俺のことを覚えていない。
というかあのときの敵が俺だということに気付いてすらいないだろう。

やっと会うことができた宿敵が、まさか自分の上司になるとは。
打つ手なし、俺の完敗だ。さすがに上司に不敬をはたらくほどバカな人間じゃない。

ただまあ、ちょっとした悪あがきというかちょっとした質問というか、
先輩に過去の俺が一切刻み込まれていないことに、少しだけ拗ねて
つい聞いてしまった。純粋に気になってもいたのだが

カフェオレを車のドリンクホルダーに置いて、ハンドルに
肘をつきながら口を開いた。

「どうして先輩は警察になったんですか」

～～～～～～～～～～～

いつもと変わらない口調で告げられた先輩の過去や警察になったきっかけは
とても重いものだった。

ただ少し、高校時代のことを思い出してくれればと思って聞いたのだが
裏目に出てしまった。

何も返さないでいることもできず、言葉を選んで話しかけた。

「じゃあ、先輩が警察になったのは、もう二度と同じことが起きないようにするため…
　なんですか？」

なるべく嫌な思いをさせないように慎重に言葉を紡ぐ。

「まさか！ただの復讐だよ！」

何とも思ってないというような笑顔で、先輩は胸の内を明かした。
笑顔といっても目は全く笑っていなかったのだが。もしかしたら
今の笑顔は俺ではなく、先輩の仇に向けられたものだったのかもしれない。

先輩のお母さんの命を奪った人間に。

この重苦しい空気から逃れるように俺は車のエンジンをかけた。
氷達先輩も俺が運転し始めると窓の外を眺めた。

しばらく走っていると先輩が不意に口を開いた。

「それにしても、強くなったね、八重くん」

そういえば俺が配属されたあの日、先輩は「初めまして」と言わなかった。