つよいひととこわいひと (ページ15)

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人間が死なない程度の少量で…

味を落とさない為に無味無臭で…

体の動きを止める毒

ヴァイオレッタは頭の中で考えたレシピを元に、意図的に体温を上げたり下げたりして、
血流も増加や減少を繰り返し、体内で毒を調合していく。

少女に向けていた髪がピクッと動いた。毒が完成したのだ。

あとはこれをあの人間に注入するだけ、そう目論みながらシアニスと少女の戦闘を見る。
少女が後ろを向いた瞬間、即座に動脈に打ち込む為に。

私ならできると自己暗示しながらその時を待った。

そしてついに、

今だ！

そう感じて思いきり髪に念じる。すると髪が意思を持ったように少女の腕目掛けて
槍のように真っ直ぐ突き進んでいく。

このスピードなら、と思った刹那、ガツンと音がして突き進んでいた髪が何かにぶつかり
動きが止まった感覚がした。

何事かと思いその少女を見れば、右腕で刀を持ちシアニスとつばぜり合いになりながら
左腕を斜め後ろ、ヴァイオレッタがいる方向に伸ばしていた。

伸ばした左腕の先を見れば、緑色で半透明の膜のようなものが宙に浮かんでいる。
何が起こったか分からずポカンとしていると少女の顔がこちらを向いた。

少女はヴァイオレッタを視界に入れるとギリッと睨み付ける。
その瞬間、ヴァイオレッタは直感でこう思った。

私じゃ、この人間に勝てない

その考えが脳を埋め尽くしていく。そして背筋に悪寒が走った。

なぜあの人間はあんなことができた？
本来人間同士でも刀を受け止めるときは両手で迎える。
なのにあの人間は片手で受け止めていた。それも暴走した吸血鬼の力を！
ただでさえ人間を上回る力を持つのに、しかもシアニスは吸血鬼の中でも群を抜いて
怪力だ。

そんな吸血鬼が暴走しているんだぞ！？
人間が、それも少女がそれを受け止められるはずがない！

そして極め付きはあの膜。一体何なんだあれは。高速で髪を直進させたのに突き破れなかった。
片手で攻撃を受け止めながら、後方からの奇襲も防いだ。

そんな芸当ができる者がただの人間のはずがない。

私はその人間に対する恐怖でその場を動けずにいた。
もしかしたら、シアニスも負けてしまうのでは…？

そんな考えが頭をよぎる。

いや、アイツが負けるはずがない。
ずっと比べられてきたのだから。シアニスは強い、私は弱い、と。

つい昔の事を思い出してしまい歯を食い縛る。
…アイツがいなければ私はもっと充実した生活を送れたんだ。