つよいひととこわいひと (ページ13)

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「あ～…さっむ」

雪が降る夜の気温に身を震わせながら、赤いマフラーを巻いた少女はぼやいた。
朝テレビをつければ、夜には雪が降るとの予報。おまけにこの冬一番の冷え込み。

その時点では、今日の夜は寒いんだな、程度にしか思っていなかった。
夜に呼び出されるまでは。

昼過ぎに知り合いから電話が掛かってきて、夕方ごろには家を出てその知り合いの
もとへ出掛けた。その時は小雨だったのに気付けば雪となっている。

７時ごろには帰れるだろうと踏んでいたが、結局一緒にご飯食べてお店はしごして
既に深夜1時を回っていた。

とにかく早く帰りたい、その一心で普段は通らない道を通る。
もともと人通りの少ないこの道は私以外誰もいなかった。

その静けさを少し不気味に感じ、足を早める。
２つほど建物を通りすぎてあと少しでこの道を抜ける、そう思った瞬間、

「…ん？」

どこからか謎の気配がした。同時に風を切るような音もする。
何かいるのかと振り返った瞬間、何者かが頭上から襲いかかってきた。

俺はその匂いを感じ取った瞬間理性が半分程崩れかけていた。
魔界から双子の妹と共に逃げ出して、もう数日経っている。

いつ追っ手が来て俺たちが連れ戻されるか、全く油断できなかった為に
こちらに来てから何も喰べていなかった。

やっと落ち着いた場所を見つけてしばし休憩する。
妹のヴァイオレッタが話しかけてくるが、その内容は魔界に帰ろうというものばかり。
今までは流していたがこうも何度も言われると、鬱陶しい。

ならきっぱりと俺の意思を伝えてやろうと思い、口を開いたがヴァイオレッタは
不服のようだ。妹の愚痴を聞き流していると、不意にどこからか
甘い匂いがした。

俺の一族はいわゆる王族で毎日喰べるものは全て高級食材だった。
にも関わらず、その匂いは今まで喰べたどの料理も霞んでみえるほど甘美なものだ。

俺は妹の話を遮り、立ち上がって羽を出す。
次の瞬間、俺は建物の屋上から飛び降りてその匂いを漂わせる人間に襲いかかった。

「っ、シアニス！」

ヴァイオレッタが俺の名前を叫ぶが、そんなことには構わず人間の首に喰らい
つこうとした。だがそいつは首に赤い布を巻いていて直接触れることができない。

まずはその布を切り裂く、そう思って髪の毛の一部、他より長く色も違うその
部位を剣のように鋭くする。その拍子に被っていたフードも脱げるが
気にせずに布目掛けて一閃した。