【悪魔達の沈黙】サーカス団の悪魔【派生作品】 (ページ2)

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Episode＃1 ページ2

「お、お願いですっ！これでチケット、売ってください！」
　みすぼらしい服に身を包んだ、まだ年端もいかないような子供に頭を下げられ、ピエロは困ったような表情を見せた。……とは言っても、お面の下に隠れた顔が見える訳もなく、あくまでも雰囲気が、の話だ。
　そんなピエロを前に、再び子供はキンキン声で「お願いします！」と頭を下げた。
「あー……ごめんな。売ってあげたいんだけど……」
「そこをなんとかお願いします！じゃないと、ボク……ボクは……」
　子供の声が潤んだ。長い前髪の間から、透明な雫が白い頬を滑り落ちていく。勿論、雨ではない。
　「参ったなぁ……」
　しゃくりあげる子供を前にピエロは＿＿＿BIZARRE団長、オリバー・アダムスは頭を抱えた。

　事の発端は一時間程前に遡る。
　BIZARREがこの町に巡業に来て一週間。町中に噂が広まり、そろそろ公演を行ってもいいんじゃないか＿＿＿と団員から声が上がり始めた頃に、オリバーは三日後の公演を決定した。団員達には本番までに演目を完璧にするよう伝え、オリバー自身は＿＿＿自ら町中にチラシ配りに来ていた。
　仕方がない。ただでさえ少人数のサーカス団だ。仲間にこれ以上の負担をかけるわけにもいかないので、団長自ら宣伝に行くしかないのだ。きっと一日も経たずに公演の情報は広まってしまうだろうが、それでも宣伝しておくに越したことはない。決してチラシ配りをやってみたかった訳ではない。断じて。
　結果から言って、所々にパフォーマンスを交えたチラシ配りは大好評だった。一時間と経たないうちにチラシは手元から全てなくなってしまった。あの調子ならチケットはすぐに完売するだろう。何より、オリバーのパフォーマンスに町の人が喜んでくれたのだ。宣伝に行こうとした仲間を止めてまで来た甲斐があった……何度も言うが、決して、チラシ配りをやってみたかったわけではない。
　もう暗くなるし、そろそろ帰ろう＿＿＿そう思いながら歩き始めたオリバーの服の裾を誰かが掴んだ。後ろを向いても誰もいない……いや、目線を下に向けると、まだ10歳にも満たないような子供がいた。仲間のイリスと同じくらいだろうか。
　どうした、とオリバーが声を掛ける前に子供は顔を上げた。
「あ、あの……ボクのお願いを聞いてください！」
「うん？」
　首を傾げる彼に向かって、子供は勢いよく頭を下げた。

「このお金で、ボクにチケットを売ってくださいっ！」

　……こうして、今に至るわけだ。