幸せな家族のはなし３ (ページ39)

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智side

「この手はずっと大事にしててね」

「ん？どうしたの急に」

「ふふっ。ほら、だってさ。

……この手だけは、
智にぃの自由を描けるから」

ほんの少しだけ感傷したような表情を見せた翔は
俺と決して目を合わせることはなかった。

ただただじっと、翔は俺の手を眺めて
笑っているような泣きそうなような顔をする。

「……なに言ってんの。
俺ずーっと自由じゃん。家族の中で1番ね」

翔の意思というのは、いつだって強いものだった。

多分誰よりも意志を明確なものにしていて
確定した意志は絶対に揺らがない。

そしてそれは困ったことに一度そう決めたら
なかなかひっくり返らない厄介なもの。

けれど。

俺はその昔から変わらない、
翔の意志の強さが好きなのだ。

その強さには根底にある優しさが見えるから。

いつだって翔の意志の強さは
誰かの為に動いてる。

自分の考えは常に
みんなの為に働いてる。

俺が自由が好きなこと、絵が好きなこと……

それを翔が代わりに求め続けているのも
全ては俺の為に悩んで探してくれている。

弟達の全てを背負う俺が
少しでも楽に呼吸が出来るように。

あるいは案外賢いくせに抜けてる翔のことだから
罪滅ぼしに似たものも中には入ってるかもしれない。

「ねぇ、翔」

俺はそれが分かってるから、
俺も何度でも翔へ伝える。

「俺はね、家族みんながいてようやく自由になれる」

自由イコール1人、とは限らない。

好きなことをするイコール他が邪魔、ではない。

家族が全員いること、その家族の幸せを願えること。

強いて言うなら、俺の自由は
たったそれだけで成立するんだ。

たったそれだけで。

「みんながいるだけで、俺は幸せだって思える」