幸せな家族のはなし３ (ページ1)

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【第三章家族のこと】［１］決断の日ページ1

ー 5年前

＂智……それは、本気で言ってるのか？＂

ふわふわ浮いた記憶の中で
しっかりと残る夜の会話。

＂うん。この家族は俺が守りたい。
今年で俺もハタチだし、収入もちゃんとある。

だから、心配しないで……叔父さん＂

リビングに向かい合って座るのは
覚悟を決めた表情の長男。

そして

＂そう言ったって、心配するよ……
俺はそんな簡単にお前達を置いていけない＂

長男の決意にまだ戸惑っている
＂親＂という役割にある叔父の姿だけ。

そんな叔父に、少し困った顔で長男が続ける。

＂叔父さん。前に俺、言ったでしょ？
もう絶対に、あんな目にあいたくないって＂

その長男の投げかけに叔父は
返そうとしていた言葉を詰まらせた。

それは、昔。

あの時も全く同じ言葉を吐き出した長男の記憶が
叔父にとって鮮明に残っているからなのか。

叔父は慎重に言葉を選ぶ。

＂……けど、それも俺の所に来れば＂

＂それじゃダメだよ。今ある生活から抜けて、
また弟達を振り回すようなことしたくない＂

叔父の話へすかさず長男が意見を返す。

他人からすればどうってことない問題。

けれど長男はそれにずっと前から悩んでいたのだ。

新しい環境となったとき、またも弟達を
不安にさせたくはないと。

会話を押していくように長男が話を続ける。

静かなリビング。

長男は暗い顔のまま、
＂それにね＂と目線を落とした。

＂俺は、もう自分の知らないところで
大事な家族が傷つけられてたなんて……

そんな酷い話、聞きたくない＂

＂……っ＂

＂もう……そんな地獄は、見たくないから……＂

次男、三男、四男と五男。

それらが離れかけていく光景は事実に
未だ長男の不安を煽り、心臓を早める。

＂わがままでごめんね。叔父さん＂

しかしこればかりは甘えてられない。

手放しでついて行って
いつまでも叔父を頼るのは限界がある。

答えの出ている長男は、そう叔父に伝えていく。

そうして最後には、＂お願いします＂と、
長男は真面目な顔をして、叔父へ頭を下げた。

＂……＂

それから
数分間にも渡る長い沈黙が続く。

それでも長男は頭を上げず、
ぐっと堪えて、叔父の回答を待ち続けた。