・ ページ9
・
「意味がわからない」
「メリットが一つもないように思えますけど」
「俺たちになんの相談もなしに？」
会議室に立ち込める雰囲気は最悪だった。7人は長机を挟むように腰掛け、私と代表とホンさんがホワイトボードの前に立つ。
彼らが1人、またひとりと姿を見せるたびにジョングクさんに出会った時と同じ反応を繰り返したが、彼らは私が練習生とは微塵も思っていないようだった。手元には、数ヶ月前に私が社長に渡されたものと同じ資料がある。女性メンバーを加入させる経緯だとか、理由だとかが書かれたあの資料だ。手が震えそうになるのをどうにか抑えて、俯く。
私に向けられる視線はどれも、冷たさと疑念を含んでいる。どうしてこいつが、と言われている気がした。ジョングクさんだけは部屋に入ってすぐ、「さっきの」と私を指さしたが、説明を聞くうちにどんどん表情が曇っていった。
一通りの説明を終えても7人は首を傾げるだけで、なにか前向きな要素を得られそうにない。緊張と恐怖で動けない私の肩にホンさんが手を添えて、「ま、まあ皆」と明るく呼びかける。
「彼女だって、私たちのスカウトに応じて移籍してくれたの。急な話で困惑するのも分かるけど、一旦話を……」
「移籍？」
声を出したのはユンギさんだった。私から1番遠い、入口側の席に腰を下ろした彼は口元に人差し指を添えて考え込む。それからわずかに目を見開いた。
「あ、待ってお前。もしかしてシアエンタの」
シアエンタ、というのは私がこれまで所属していた事務所の名前だ。正式にはSea-A Entertainment だが、略して「シアエンタ」呼ばれることが多い。まだ私は自己紹介すらしていないのに、どうして事務所の名前が出てくるのかと顔を上げた。ほかのメンバーもユンギさんを振り返る。
「シアエンタの、なんですか？」
ジミンさんが続きを問いかけた。
「シアエンタでデビュー有力候補だったのに、スキャンダルで白紙になった奴だろ。どっかで見たことあると思ったら」
スキャンダル、という言葉が出た途端緊張感が走った。
.
続く
お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 130人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2023年2月7日 9時
