ジャルドーレに眠る夢。 (ページ5)

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パトリッツァはイタリア人である。

イタリア生まれのイタリア人。しかし、イギリスはロンドンにあるここ、ジャルドーレ通りに捨てられていた捨て子。

きっと、生みの親が何かの用でイギリスに立ち寄った時に捨てられたのだろうと言われている。それはパトリッツァにも理解できた。だって、その方が帰って来る可能性も低いし、世間体的にもごまかしやすい。

そのおかげで今楽しく暮らせているのだから、パトリッツァはそんな自分の出生についてもあまり気にしていなかった。そもそも、気にしてどうにかなる事でもない。

ストリートチルドレンとして周りにお世話になりながら生き延び、『Pour profiter』の店主夫婦に拾ってもらえた。それだけで十分自分は幸せだと、パトリッツァは思っている。

「イタリアねぇ……」

アネッサも帰宅した後の夜更け。自室のベッドにダイブして、パトリッツァは再度呟いた。

イタリア。別に今更、気にしてもいない国。しかし、パトリッツァの生涯に常に薄く付いて回る影のような存在。

一度行ってみるのもいいかもしれない。そんな遠い未来になるであろうことを考えながら、自分の『過去』について何か思い出そうと試みてみる。

――過去。

物心ついた時には、周りの人に助けて貰って過ごしていた。

路上に捨てられていた私を見つけた他のストリートチルドレン達が、何かと気にかけて食事を持ってきたりと面倒を見てくれたから私は赤子の時に死なずに済んだ。名前もつけて貰ったんだ――イタリア人に多い、『ジューリア』。

そういう子達は助け合うのが掟なのだと、笑いながら教えてくれた年長の男の子を思い出す。あの子は今、どこにいるんだろう。

通りかかった人に施しを貰う事で一日を過ごすという技を身につけた。

小さい頃のせめてもの恩返しにと、私も『掟』をきちんと守って小さい子達と助け合って暮らした。

おかげで沢山の仲間もできた。アーサーはその頃お世話になった幼馴染で、今でも酒場に通ってくれている。

そして十歳の時、通りかかった『Pour profiter』の店主が私のことを拾って、新しい名前をくれた……『パトリッツァ』と。

多分それが、私の過去。

そこにイタリアは殆ど関わっていないし、それに纏わる記憶もない。

きっと思い出すこともないだろうから、これ以上考えるのはやめにして、明日に備えてもう寝てしまおう。

お休み、ジャルドーレ。

遠い昔に教わった挨拶を心の中で呟いて、パトリッツァは目を閉じた。