Premonition ページ2
そんな、ジャルドーレで過ごすとある一日のことだった。
今日はお店がお休みの日なので、パトリッツァは自由に、若干時間を持て余して、通りを散歩していた。
年の離れた友人であるライナーの営む喫茶店に顔を出してみたり、美容師であるアネッサに捕まって小一時間髪を弄られ続けたり。
お陰で髪は素敵なスタイルに変わってしまったが、それなりに充実した一日を過ごせた気がする。
今はもう日も暮れてきた時間帯。お店に戻ろうとしているところだった。
ふと空を見上げると、分厚い雲が覆っている。折角の夕焼けが見れなくて残念……ジャルドーレ通りの夕焼けは、それはもう何にも例えようがないほど美しいのだ。
かつて、『ジャルドーレ通りは夢を見ている』なんて言葉を残した旅人がいるらしい。
夢を見ている。それはきっと、あの夕焼けを見て、感激した旅人がその美しさを表現したものだと私は思っている。ここで暮らす人々の、笑顔と涙と夢をいっぱいに詰め込んだ日の光。
初めて夕焼けを見た日のことを思い出して、思わず笑みが漏れた。
立ち止まっている間にもどんどん時間は過ぎて、いつのまにかあたりは大分暗くなっていた。
いけない。早く帰らなくちゃ、と足を進める。
近道をしようと、店に繋がる路地裏へと入っていったのが仇となった。
「……え」
目の前の光景に足がすくむ。凍りついたように動けない……力が、入らない。
それ程に、目の前のそれは異常なものであった。
目に入るのは、血まみれでフラフラとこちらに歩いて来るドレス姿の女性。
よく見ると左右で目の色が違う。一方は黒で、もう一方は桃色。明らかに死にかけているというのに、その人は狂気的にも見える笑みを浮かべていた。
「……Finalmente ci…… siamo、incontrati……」
途切れ途切れで発せられる、理解できないどこか異国の言語。
ふと我に返って、縋り付いてくる女性の肩を掴んだ。
「っ大丈夫⁉ 今すぐ医者を……」
「――」
途端、物凄い勢いで手を伸ばされ、頰を触られる。驚いて咄嗟に声が出ない私に、女性は異国語で何かをまくし立てながら、確認するかのようにペタペタと何度も私を触って頰を撫でる。
一体どうしたというのだろう。今にも生き絶えそうな異国の女性が、私に縋り付いて何かを訴えかけている。
助けが欲しいのではないのか? 混乱した頭で必死に考え、取り敢えず店に運ぼうと女性に手を差し出しかけた時だった。
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作者名:しゅある | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月8日 21時