18話 ページ18
張り替えられたばかりの畳はイグサの香りがとても新鮮だ。
広い和室でAは用意されていた座椅子に腰を下ろし、立派な一枚板の卓の年輪をつい少しだけ数えてしまう。
ガラス戸の向こうから差し込む陽の光が、このざわつく胸の緊張感を優しく解いてくれるような気がした。
本田さんの髪の一本から指先までが、ゆっくり、ゆっくりと頭の中で繰り返される。
お土産のお団子を渡したら、とても喜んでくれたけれど、もっと見栄えの良い菓子にした方が良かったのだろうか。
本田さんの微笑う瞳が今もまだ目の前にある感覚だ。
ふわりふわりと泡玉にように浮いている思考。それは戸の開く音でぱちりと割れた。
「悪い。待たせたな。」
「いえ、構いません。」
さっそくはじめるか、と戸口に佇むアーサーさんは、私の隣に胡座をかくようにして座った。
革張りの大きな鞄の中から何枚かの布と、それから製作途中である円形の刺繍枠を取り出した。
あまり見慣れない道具の山は、私にとっては他人の宝箱を見せてもらっているようで、たまらず身を乗り出してしまう。
差し出された布の一枚一枚をゆっくりと見つめる。
アーサーさんの指から作り出される作品は、まるで一枚の絵画のような華やかさ、神聖さ、色鮮やかに何色もの糸を使い分けて繊細に作り込まれていた。
すごい、と思わず口に出してしまうほどに。
花弁の一枚一枚に糸編みも入れ立体感を生み出している。
自分には考えもつかないような手法に、ただただAは目を輝かせた。
「あはは、そんなに気に入ってもらえたか?」
「ええ、ええ!やはり同じ文化でも国が違えばこうも個性が出るのですね。この薔薇の刺繍はまるで名画家が絵に描いたようですね。」
溢れるほど大きな薔薇の花の刺繍には薔薇の花弁一枚一枚まで絵に描いたように色の濃淡がつけられていて、うっとりするほどの出来映えだ。
そうでした、と一つのことを思い出しAは風呂敷を広げると、アーサーさんの技術を少しでも教えてもらいたいと思い、持ってきた道具を取り出す。
「今日はアーサーさんに英国式の刺繍を教えていただきたいと思いまして。」
一連の様子を見ていたアーサーさんは吹き出すように笑い、お安い御用だ、と私の方へ向き直る。
深緑の瞳にじっと見つめられると、くすぐったくなって思わずその視線から逃げたくなる。
外国の人は不思議だ。
違和感のないように、用意をするふりをするように、私はゆっくりと視線を背けた。
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りつ - とっても素敵な作品で沼りました!続き待ってます! (2022年11月20日 18時) (レス) id: 2356714097 (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - ゆずきさん» 応援ありがとうございます!お褒めいただきとっても嬉しいです😭 (2022年2月22日 7時) (レス) id: 530dc5b1e4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずき - 表現とか、語り口や人物の喋り方が違和感なく美しくて凄いですね、、!応援してます😊 (2022年2月21日 20時) (レス) @page3 id: 7fcb5497e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:珠緒 | 作成日時:2022年2月17日 19時