14話 ページ14
じりじりと身を焼くような日差しが容赦なくこの街を照らす。
小さな子たちが瓶ラムネを買おうと群がっていて、この季節も大一番を迎えようとしていた。
待ち合わせの喫茶店に近づことしたとき、前方から歩いてきた二人組の女の子が何やら興奮気味に会話をしていて、耳をそば立てれば一人の人物を彷彿とさせるような単語が聞こえてきた。
確認するように、私は遠目に約束の店の前へ視線を送るがなるほど、その存在感は周りの目線を奪うような華やかさがある。
私が近づいたら逆に悪目立ちしそうだな、と思いながら歩みを進めると、気がついたアーサーさんがひらひらと、こちらに向かって手を振っていた。
「こんにちは。暑い中、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。」
いや、俺も今さっき来たところだ、と深緑の色をした瞳がにっこりと微笑う。
そして当然のように差し出される手に、私は見つめたまま思考を巡らせると、荷物は俺が持とう、と腕に抱えられた風呂敷がそっとアーサーさんの手に渡った。
「ありがとうございます。」
「気にするな。英国では当たり前なんだ。」
そう言った表情が柔らかくて、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
ふと、周囲を見渡すとこちらを見ていた通りすがりの人々が慌てて視線を逸らして何も知らないように振る舞っている。
「俺がいると変に目立つな。行こうか。」
貴方のせいではありませんよ、とこの場で言いたいのを堪えて、その背を追いかけるように歩き出した。
前にお会いしたときも思ったが、隣を歩く背の高さや、華やかな薔薇の香りがなんとも言いがたい気持ちにさせられる。
横目に見上げると、あの美しい瞳を彩るように添えるまつ毛まで輝いていて、日本にはない美というものを見せつけられているような気分であった。
あの、アーサーさん、と呼び掛けると応えるようにその瞳が私に向く。
「先ほどの人たちは、アーサーさんの美しさに見惚れていたんだと思います。この国にはアーサーさんのように生まれながら宝石のような瞳や絹のように輝く髪を持つ方はいませんから。」
気分を害されていないだろうか、と少し不安であった。
外国の方を歓迎しない人は一人もいない、というのは嘘になってしまうかもしれないが、私の周りや知り得る限りではそういった考えを持つ人はいない。
その表情は横目には分かりにくいが、私が伝えたかったのはこれだけだ。唯一見える白蝶貝のような耳がほんのりと色付いているのは気のせいのようにも見えた。
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りつ - とっても素敵な作品で沼りました!続き待ってます! (2022年11月20日 18時) (レス) id: 2356714097 (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - ゆずきさん» 応援ありがとうございます!お褒めいただきとっても嬉しいです😭 (2022年2月22日 7時) (レス) id: 530dc5b1e4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずき - 表現とか、語り口や人物の喋り方が違和感なく美しくて凄いですね、、!応援してます😊 (2022年2月21日 20時) (レス) @page3 id: 7fcb5497e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:珠緒 | 作成日時:2022年2月17日 19時