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万が一のことを考えて、もう数日の間コテージに滞在する予定だったが、仕事はもう終わってしまった。エーミールさんは何やらカタカタとキーボードを叩いているがゾムさんはソファで昼寝をしている。私はどうしようか。
「Aさん？自由にして構わないと伝えたはずですが」
「そ、それはそうなんですけど……やっぱり護衛ですし、エーミールさんの傍に居た方がいいかと思って」
「…………」
エーミールさんは少し思案した顔をすると、椅子にかけたコートから白い箱を取り出した。私の目の前までやってきて、ゆっくりと蓋を持ち上げる。その中に輝くのは、黄色い飾りが美しい蝶のイヤーカフだった。
「これは……？」
「発信器の機能がついたイヤーカフです。一方通行ですが私から音声を送ることも出来るので、Aさんのお好きなところに行っていいですよ」
「え……くれるんですか？」
「もともとAさんのために用意したものです。つけて差し上げても？」
「えっと、はい……お願いします」
頭を下げるとエーミールさんの右手が顎に添えられ、上を向かされる。胡散臭い笑顔とも悪い笑顔とも違う、暖かな笑み。そのまま髪を掬って耳にかけ、エーミールさんの手が耳に触れる。この妙に心臓に悪い時間は、私がドギマギしているうちにあっという間に終わった。
「じゃあ……せっかくいい場所なので散歩にでも行ってきます」
「こちらにはゾムさんもいますし、気にせず羽を伸ばしてきてください」
「はい。何かあれば呼んでくださいね」
扉を開けてちら、と振り返ると、もう仕事モードに戻ったエーミールさんが見えた。最後に行ってきますと声をかけると、閉じゆくドアの隙間から彼と目が合う。
『お気をつけて』
カフから聞こえてきた声にドキ、と音がした。
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