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目が覚めると、固い床の上に転がされていた。手は後ろ手にまとめられ枷がついており、立ち上がろうとして開かなかった足も同じように枷がはめられているらしい。部屋を覆う、というよりは部屋自体が巨大な機械になっている。枷にもドアにも鍵穴らしきものは見つからず、おそらく全てがコンピューターに制御されているその部屋で一人の男がこちらへ歩いてきた。
「お目覚めか。えーと、確かAさんと言ったかな」
「アンタ、A社の……！」
私の前で護衛もつけずにニタリと笑うのは記憶に新しいA社の社長だった。趣味の悪い金ぴかのスーツや装飾品に身を包み、気持ちの悪い笑みでこちらを見下す。その下卑た顔を睨み付けた。
手枷と足枷。相手が社長一人なら、ハンデにもならない。
体を起こして両足で地面を踏み切る。丁度鳩尾の辺りに頭突きをお見舞いすれば男は簡単に余裕の表情を崩した。私の反撃に慌てたのか、ポケットを何かガサガサとやり、中から何やら怪しいボタンを出してそれを押す。刹那、全身に電流が走って、受け身も取れずに床に頽れた。男が私の首、知らぬ間につけられていたチョーカーをなぞる。
「ははははは……！すまないね。これは話し合いを公平にするものだ。さあお嬢さん、私の護衛にならないか？」
「ッ……、誰がそんなもの！」
「君は美しいのに、実に勿体ない」
反発すればまた、電流が流される。睨み付ければ睨み付けるほど男は嬉しそうに笑った。
何が公平に、だ。反吐が出る。
「『散りぬれば 後は芥になる花を 思い知らずに まどふ蝶かな』君はこの歌の蝶そっくりだよ。彼らとともにせっかくの命を儚く散らす気か？」
男が得意になって話すのを特に反応もせず聞き流す。私が黙りこくっているのは単に聞く気が無いからだけど、何を勘違いしたのかべらべらと喋り続けた。
エーミールは強いけど所詮個人。他人を信用できない奴はいずれ衰退する。それより企業という大きなグループに所属した方がいい。結局数は武器なのだ。君なら妻にしてやってもいい。
最後のやつは金を積まれたってお断りだ。
言いたいことは全て言い終えたらしい。こちらの様子を伺う汚い目を睨むと、それが気に入らなかったのかまたボタンを押された。
それで私が屈服すると思っているなら続ければいい。私は何があっても彼を裏切ることは無いのだから。きっとそのうち、エーミールさんとゾムさんが助けに来てくれるから。あの二人がいれば、怖いものなんて無いのだから。
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