Spring ephemeral【科em】 (ページ2)

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「…………勝負ありですね」

完璧に死角からだったはずの私の刃は地面に突き立てられ、首元にゾムさんのナイフが当てられる。一瞬の隙を突かれて形勢は逆転した。今日こそは倒せそうな気がしたのに、また、勝てなかった。
肩を落とした私を見てケラケラと笑ったゾムさんは、ナイフをその懐へしまった。

「お前は動きが読みやすいからな」

目くらましは良かったけど、それで慢心したな。と、こちらには慢心したつもりなど一欠片も無いと言うのにゾムさんはしたり顔だった。あの場面では相手の利き手と反対側に動け。相手がしてきた攻撃だけじゃなくて、相手がしてきそうな攻撃を予測しろ。武器に頼りすぎるな。etc.……。戦略を練って相手を自分の思惑通りに動かすのはエーミールさんの得意とすることだが、戦闘中の一瞬の読み合いに関してはゾムさんが一線を画していた。

元軍人で長いこと護衛を務めてきたゾムさんによる長いお説教をコホン、と咳払いが遮る。

「お二人とも。一段落ついたなら明日の仕事の説明をしますよ」
「あ、はい。わかりました」
「了解。じゃ、後で反省会な」

エーミールさんについてコテージの中へ帰れば、オシャレなケトルでお湯が沸いていた。今はもう使われてない廃コテージ。そのわりに綺麗なままのテーブルにつくと、エーミールさんは慣れた手つきでティーポットに茶葉を投入した。本当は下っ端の私がやるべき仕事なのかもしれないがエーミールさんが淹れた方が美味しいので、この仕事はいつもエーミールさん担当だ。ガラスのティーポットで茶葉が踊る。その視線を遮るように蝶柄のティーコージーが被せられた。

紅茶を蒸らす間、エーミールさんがコテージ近隣の地図を広げる。一見すれば何の変哲も無い里山の地図。エーミールさんはそこに赤ペンで丸を印して人差し指を置いた。

「この山にA社の隠された施設があります」
「こんな山奥に？」
「はい。ご丁寧なことに衛星写真にも細工をしているようです。十中八九、表で言えないことをしているのでしょう」
「A社といったら、有名なインターネットセキュリティの会社ですよね？こんなところで何を……」
「人身売買ですよ。得意の情報操作で戸籍を消したりといったことをしているんです。わざわざインターネット圏外で独自のネットワークを使ってね」

エーミールさんは私達が戦闘訓練をしている間、あるいはもっと前から集めていたらしい資料をテーブルの上に広げた。