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百三話「諦めない」 ページ16

「「「A!?」」」






癖毛の真っ白い髪に黒のメッシュ、特徴的な左右非対称の前髪。
兄とよく似たその少女、Aは扉を勢いよく開け、そこに立っていた。
黒いスカァトをふわりと揺らし、いつもとは違う凛々しい表情で福沢を見つめていた。







「もう一度云います。私も兄の救出に行かせてください」







その目には揺るぎない闘志が灯っていた。
誰にも曲げることのできない強い信念がそこにはあった。
暫くの沈黙が流れる。
こうしている間にも、敦は船で外国へと連れていかれている。
一刻も早く、兄の救出へ行きたいのだ。
そんなAに国木田が警告する。







「やめろ小娘。これは遠足などではない、仕事だ。
軽い気持ちで足を踏み入れると大怪我をするぞ」


「…軽い気持ちなんかじゃ、ありません」







遊びなどではない、そんなつもりではない。
それは自分が一番よく判っていることだ。









「あのとき、私がちゃんと冷静に判断をしていればお兄ちゃんを助けることができた。
なのにできなかったのは、自分が無力すぎたからなんです」









声を張り上げて、自分の気持ちをそのままぶつけるようにAは叫んだ。









「もしもここで諦めたら、私は一生後悔する」









それは夢の中で、Aが孤児院の院長に云ったものと一緒だった。
過去の記憶と先程の夢、屈辱的な記憶がAの闘志に火をつけるようでもあった。









「私はここで諦めたくありません。
どうか私にもう一度チャンスを下さい」









そう云ってAは頭を下げた。
少しでも見えた希望をチャンスに変えて絶対に逃さない。
その熱意に在る人物が応えた。








「宜しい」








弾かれたように顔をあげる。
声の主は福沢だった。







「その信念、しかと受け取った。
国木田とAは敦の救助へ向かえ」


「ッ…ありがとうございます!」








今にも溢れ出しそうな感情をグッと堪え、誠心誠意のお礼を云う。
だが感情に浸る時間は今は存在しない。









「行くぞ小娘……急がないと小僧が受け渡されてしまう」









そういって国木田はAの頭にポンと優しく手を置いた。









「よく云った」








小声でそう呟く。
それは上司としての後輩への誉め言葉だった。









「はい」









そうして二人は敦救出へと向かった。

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+アリス+(プロフ) - かにかまさん» 塩対応能力(笑)ですね。妹ちゃんは太宰さんを塩対応すればするほど良いと(個人的に)思ってるので(寧ろ敦くんには天使スマイル向けてほしいです) (2018年10月24日 19時) (レス) id: 87d894de71 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - 塩対応能力w (2018年10月23日 20時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 紅華さん» すみません間違えていました。誤字の指摘、本当にありがとうございます。申し訳ありませんでした (2018年9月30日 23時) (レス) id: 87d894de71 (このIDを非表示/違反報告)
紅華(プロフ) - あの公開ではなくて後悔ではないのですか? (2018年9月30日 23時) (レス) id: 1bdfb279a8 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 緑谷みとかさん» はい、では早速紹介させていただきます! (2018年8月14日 10時) (レス) id: 87d894de71 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:+アリス+ | 作成日時:2018年7月18日 20時

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