リュンヌを追われた兎 (ページ5)

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バレヌブロンシュの大家族ページ5

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　快晴が続く大海原を一匹の海獣が小舟を引いて泳いでいた。
　小舟には長身の女がひとり、帽子を顔にのせ眠りについている。其処へ大きな影が差し掛かるも、深い眠りについているのか彼女が起きる様子はなかった。

　「おぉ！サッチ見ろよ！！アレ、美味そうじゃないか！？」

　影の正体は巨大な海賊船。船首に鯨を模した船からは数人の男達が身を乗り出し、海獣を見下ろしていた。

　「肉付きも良さそうだな！いけるか？」

　「おう！任せろ！！」

　火柱、叫びとともに上がる火柱に男達は喝采を上げる。
　海獣は突然の痛みと衝撃に苦痛の叫びを上げ海に倒れたが、気がかりだったのは己の後ろで燃え盛る小舟の存在だった。主人は大丈夫だろうか、主人は――。

　「おい、エース！さっさと仕留めろよ！」

　「はいよ！今日の昼飯、いっちょ上が――」

　とどめを刺そうと拳を振り上げた、その瞬間――男の横顔に拳がめり込んだ。

　吹き飛んだ仲間に男達は目を剥き各々戦闘態勢に入るが、荒々しく甲板に降り立った存在に慄いた。

　『私のペットに、なにするアルかー！！！』

バレヌブロンシュの大家族

　『モーム！ちょっと待ってろヨ。私が落とし前をつけてやるヨ』

　主人の無事を確認したモームは涙を浮かべ深く頷いた。
　Aは怒りがうなぎ登り状態で放たれる殺気は禍々しい。大事なペットが攻撃されたうえ、小舟まで燃やされたのだ無理もない。

　「お、おい！アレ、お前さんのペットだったのか！？」

　『そうアル！小舟まで燃やしやがって！』

　「……そいつは、すまないことをしたよい」よくよく見れば彼女自身も煤で汚れており、その被害が大きかったことが伺える。

　マルコが口を開こうとした、その時。

　視界の端で炎が飛び上がった。

　「っあの、バカ！！」マルコの焦りとは裏腹に炎はAに命中し、またたく間に彼女を包み込んだ。

　「おい！急いで水かけろ！！」

　「嬢ちゃん！大丈夫か！？」

　仲間たちが甲板を走り回る中、起き上がったエースは首を傾げる。

　駆け寄ってきた兄貴分に頭を殴られ腑に落ちない眼差しを向けると、炎を纏った女が身にまとっていた服を投げ捨てたのが見えた。

　身の丈ほど黒く大きな翼が炎をあやすように掻き消し、甲板の板をひと撫でする。

　「――っ、嘘だろっ！！」

　ギラリと光る金色の瞳は、獲物を狙う猛獣を彷彿させた。