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「ははは……ひっ！！」
「はぁ？ なんだ、よ」
背後から突き刺さる視線に振り返ると、とんでもない殺気が彼等を覗いていた。中でも料理長の発する禍々しいオーラは新兵達を脅すには十分なようだった。
「おい、お前ら……あいつに不埒なマネしたら、ただじゃおかねぇぞ」
両手に持つ肉切り包丁を刃合わせする姿に、彼等は鬼を見た。
料理長にならうように他のコックたちも、それぞれ武器を覗かせ威嚇している。屈強な男達が集まる海軍本部。その厨房を任された彼等もまた、屈強な男達なのである。
ギロリと音のする視線を受けた新兵たちは脱兎のごとく逃げ出した。
厨房の紅一点は、己の知らぬところで屈強なコック達に守られて育った。
『ん？ アイツら、元気ネェ』一目散に逃げ出した新兵達を横目にAは、食後のお茶を啜る。これでもかと盛られていた料理は、いつの間にかキレイに平らげられていた。
『ごちそうさまでしタ』
「いただきます」と「ごちそうさま」。
食品に感謝し、美味しく、残さず平らげる。Aが青海に降り立って最初に教わった習慣は、大人になった今でもAの中では大切なルールだ。
何気ない言葉と動作だが、食堂に残っていた男達の目を釘付けにする。伸ばされた背筋と所作が美しく映った。
「はいよ、お粗末さん。A、もう上がんな。明日からの準備まだしてねぇだろうが」
皿を食洗に漬けたAを横目に、料理長は言葉を投げる。その会話に他のコック達も、明日からかぁと楽しそうに目を細めた。
『いいアルか？ お言葉に甘えるヨ』
「お土産よろしくなぁ」
明日から五日間、Aは休みを貰った。あまり休みを必要としない彼女を、男達は定期的に休ませている。そうでもしないと、Aは永遠に働き続けるのだ。
「A、何処に行くか決めたか？」
キャスケットの鍔を指で上げたAは金色の瞳を輝かせる。
『とりあえず、夏島』
南国フルーツたくさん持って帰るネ、楽しそうに
彼女はまだ知らない。
この先で巡り合う数々の出会いと冒険の存在があることを。
とある夏島に、左目に三本の傷を認めたジョリーロジャーが上陸した。
金色のラパン
金色の瞳を持った兎は海へ出た。
ラパン(lapin：うさぎ)
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作者名：スピネル | 作成日時：2022年1月23日 22時
