She See Sea (ページ1)

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Einleitung ページ1

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　かあしゃんはどうして、とうしゃんとけっこんちたの？
　息子からの思いがけない問いに、編み物をするAの手が止まる。

　『あらまあ、ゼクスちゃんったら。どうしてって、大好きだからよ』

　ゼクスと呼ばれた男の子にそっくりな顔が、Aの肩口からひょっこり顔を出す。ゼクスの双子の兄、フュンフだ。

　「ふたりはジュッコもとちがちがうって、しゃっちおいたんいってたよ！」

　「なんでけっこんちたのー？」

　なんでなんで、と双子は母親の身体を揺さぶった。
　双子の行動に笑みを浮かべたAは編み物を中断し、ぽっこり膨らんだ腹部を撫でる。今月臨月を迎えたそれに、子供たちも母親にならうように優しく撫でた。

　『それじゃあ、二人にも聞かせてあげる。これは、ある女の子のお噺。その子はね、だぁれも行ったことのない名もなき島に、たった一人で暮らしてたの。後に、その島についた名前が“ラフテル”』

　「らふてるって、わんぴーすの島だ！」

　「わんぴーす！」

　父親によく似た二つの頭を撫でると、これまた父親によく似た瞳が彼女を覗き込む。その目の輝きは母親によく似ており、好奇心に溢れていた。

　『そう、そのラフテルよ。そのラフテルに住んでいた女の子は、気づいたらひとりぼっちだったの。親もいない、友達もいない、たったひとり。彼女の友達といえば、本と妖精だけ。彼女はね、万物を司る妖精とお喋りができる子供だったのよ』

　「ようせいしゃん！かあしゃんといっちょ！」

　「ようせいしゃん！いっちょだねぇ！」

　Aが空中に指で円を描くと、何処からともなく小さな旋風が吹いた。双子の癖のある髪がふわふわとダンスを踊る。

　「きゃはは！かあしゃんもっと！」

　「もっと！もっともっとよい！」

　双子を優しく風が包み込み頬を撫でる。興奮で上気した頬がバラ色に染まり、小さな手がAの手を掴んだ。

　『ふふふ。その子もね、あなた達のように好奇心旺盛だったのよ』

　「こうき？」

　「……むじゅかしいよい」

　『あら、ごめんなさいね。あなた達によく似てたのよ。本を読んでは色んなことに興味を持って』

　思いを馳せていた、そう心の中で呟いたAの瞳は物憂い気な色を滲ませていた。

　「おい、野郎ども！俺達の可愛い娘だ！！」

　今は亡きもうひとりの父親も好奇心旺盛だったことを思い出し、彼女はひっそりと笑みを零す。