ブルオウトロメールに沈む、溶ける。 (ページ1)

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はじまりのオーブページ1

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　朝起きると、泣いている。

　日も差さない夜明け前の時間から、わたしの一日ははじまる。間接照明が部屋を仄かに包むこの空間で真っ先に目に飛び込むのは、ペンキが少しだけ剥がれた天井だ。毎月のハウスクリーニングのおかげでシミひとつ無い其処を、寝起き特有の頼りない視界で見つめていると、瞬きの間に自分の睫毛が濡れていることに気がついた。

　──今日も、か。

　朝起きると、泣いている。
　それが何故なのかはわからない。一粒のかけらさえも記憶に残っていない夢の所為なのか、それとも歳を重ねるたび緩んでしまうという涙腺のせいなのか。

　ただ、思い出せるのは誰かが、わたしの名前を呼んでいたことだけだ。

はじまりのオーブ

　わたしの一日の始まりは、一般海兵と比べると少し変わっている。
　それに気がついたのは中佐になってからだった。朝早く起き支度をするのはあの人と取り決めた、決まり事のためだった。戦争孤児のわたしを拾ってここまで育ててくれたあの人は当時大将で、尊敬する素晴らしい人格者だ。

　出かける前にキッチンで仕立てた料理を、いつもの重箱に詰めて下り坂を歩く。わたしの家はマリンフォードの郊外、高台に位置していた。高台からは本部を含む城下町がよく見て取れるが、街はひっそりと静けさに包まれまだ眠りについているようだ。

　しばらく歩くと、このマリンフォードでもひときわ大きな日本家屋に辿り着く。勝手口の扉を解錠し音をなるべくたてないよう開閉する。勝手知ったる庭を進むと、目的の人物は既に起きて庭いじりをしていた。

　「A、おはよう」

　『おはようございます──センゴクさん』

　わたしに気づいたセンゴクさんは、よっこいしょと立ち上がるとその手に着けていた軍手を外し目を細めた。視線の先は、わたしの持つお重箱だ。

　「今日も、入っているか？」

　『もちろんです。今日は、プッチから取り寄せた新鰹で出汁をりました』

　嬉しそうに顔を輝かせるセンゴクさんに背中を押され、庭先から室内へと足を踏み入れた。

　センゴクさんから言いつけられた決まりごと──毎朝、家族と食事をすること。