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「なに。やめてよ」
諦めてスクバを離すと、スクバは地面に落ちていった。沖田はスクバの代わりにわたしの腕を掴んでいる。
「ふざけんなよ、お前少なくとも俺にチョコ渡すくらいの義理はあんだろーが」
「わたしは無いと思ってるから渡してないんでしょ」
「……どーせ俺以外には渡してんだろ?」
沖田は俯いて、自嘲気味に口角を奇妙に歪める。こいつのこの顔が、本当に嫌いだった。
それは小学6年のバレンタインデー。
少しませてきたわたしたち女子は、今日みたいに友チョコを作って交換しようという話になっていた。わたしもお母さんと一緒に初めてチョコを作ったのだ。もしかして総悟くんにあげるの〜?なんて冷やかされながら。まあ沖田のバカにもチョコをあげてやってもいいかな、もちろん義理だけど。そう思った。
『チョコ、余ったからあげる。義理だけど』
義理チョコなのに、なんとなくソワソワしながら沖田にチョコを渡した。ちゃんとカラースプレーでバカって書いた特注のやつ。
『お前の手作りなんてくわねーよ』
沖田は12歳にして既にめちゃくちゃ生意気小僧だったのだ。チョコを受け取ったくせにわざわざ口角を歪めてそう言って、乱暴にそれをランドセルに投げ込んだ。
せっかくお母さんと一緒に作ったのにな。バカって書いたのにな。
いま思えばお互いにおこちゃまだっただけだからしょうがないんだけど、あの時は無性に腹が立って悲しくなって、わたしは泣いた。沖田なんかのせいで泣いていることも悔しくて、沖田なんて嫌いだバーカって思って、そのまま小学校を卒業した。
中学1年のバレンタインは意趣返しとして、沖田以外のクラスメイトにチョコを配った。前から席順にチョコを配っていって、一人だけ露骨に飛ばされた沖田は、足を引っ掛けてきた上、死ねと口パクで言ってきたから、お互いまだまだおこちゃまだった。
「友チョコしかあげてないし、てか痛いんだけど」
「……まだあん時のこと根に持ってんのかよ」
「は?」
「小6のときの」
「別に。覚えてるけど根には持ってないよ」
わたしたちは18になった。
噂に聞いたところ、沖田は卒業したら警察学校に入るらしい。わたしは普通に大学に進むから、小学校からずっと一緒だったこいつともようやくお別れだ。
「……あれ、普通に食ったし」
「あっそ」
お互い少しだけ大人になったわたしたちは、センチメンタルに思い出を回顧しはじめていた。
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お嬢(プロフ) - スノードロップスさん» はじめまして!とても細かいところまで読んでいただけて感激です……!私も密かに気に入ってる箇所だったりします笑 のろのろですが更新進めたいと思います。コメントありがとうございました! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 2cdd8ff415 (このIDを非表示/違反報告)
スノードロップス(プロフ) - はじめまして。「職業選択の自由って〜」「公共の福祉に反したんだよ」の流れがすごく好きです。憲法に憲法で返すのいいですね。betさんの作品は初めて読んだのですが、秀逸で面白いと思いました!betさんの無理のないペースで更新頑張ってください。 (2021年8月4日 19時) (レス) id: bfd7564905 (このIDを非表示/違反報告)
お嬢(プロフ) - ☆辻村春樹☆さん» はじめまして!素敵な短編集なんて仰っていただけてとても光栄です。書いてよかったなと思いました。お気遣いのお言葉もありがとうございます。コメントを励みに更新を進めさせていただきます……! (2021年7月28日 20時) (レス) id: 0c52efd26d (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - 初めまして。素敵な短編集を見つけて、一気に読んでしまいました!さらに先程土方さんの話の続きが読めてとても嬉しいです。無理のないよう更新頑張って下さい!betさんの書かれるキャラなら皆好きです! (2021年7月2日 23時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
お嬢(プロフ) - 光華さん» ありがとうございます!土方さん書くの難しくて心折れまくりなんですが(笑)そう仰っていただいて嬉しいです。更新がんばります! (2021年6月10日 22時) (レス) id: 1bb1611709 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お嬢 | 作成日時:2021年2月17日 19時