ゆずと枝豆 ４ ページ8
座ったまま両手をのばしたら
ワキの下を掴んで勢いよく立たされて、
智くんの胸に抱きつく。
「ねぇ？」
「んー」
「ごはんしてないの」
「まじか」
「ごめんね？」
「なんかしちゃる」
「えー？なんもないよ」
「じゃあビール飲んで寝るか」
「ゆずもらったよ」
「…」
「…ゆず」
「たべんの？」
「…食べないよ」
「どーすんの」
「どうしよ」
智くんが私の頬に手を添えて
親指で下まぶたを優しく撫でる。
ツメと指の間に絵の具が挟まってる。とれないよね。
「泣いてないよー！」
「泣きそうな顔するから」
「してないよ」
「泣いてねぇな」
「うん」
「あの日も泣いてなかった」
「うん…そう…？」
「わすれた？」
「…わすれてない…なにを？」
「……しょくよく？」
しょくよくー？お腹すいた―！って笑ってみせる。
智くんは困ったように眉毛を下げて
私を離す。
そのまま台所へ行って冷凍庫を覗くと、
なんもねぇ！って、もっと困った顔をした。
「枝豆茹でるか」
「えだまめ？冷凍の？」
「そ」
「いつのかな？」
「前のだな」
「あたりまえー！」
「冷凍だからへーきでしょ」
袋の中で相当固まってるらしく、ガシャガシャやってる。
茹でれば関係ないのに。
「あのね、はす向かいのね、おばあちゃんがくれたの」
「ん？」
「…」
「ゆず？」
「うん」
「ねこばーちゃんだな」
「ねこ？」
「ねこ屋敷なの」
「何匹？」
「いっぱい」
「私、普通に玄関出ちゃった。いつも郵便しか来ないから、つい」
「いいよ？べつに。」
「おばあちゃん、あれ？って顔してた」
「させとけ」
「私大野さんちの子だと思われたよ」
「困る？」
「私は困んないけど」
「んー」
「おばあちゃん、ボケたって顔してた」
「ふふ。いいよ」
楽しそうにお湯の中に枝豆をザザーって入れてる。
どうせね、とか言って、ひどい。
智くんが勝手口を開けて、
食卓のゆずを2個とも掴んで外に出す。
扉を開けっ放しにされて冷気が一気に流れ込む。
「閉めて―」
「ふふ」
「さむいよー！ストーブの意味ない！」
「換気ね」
「さっきつけたばっかりだよ？」
「…ゆずの匂い、こんなにこもって。」
「…」
「枝豆食べてる気がしないでしょ」
「うん…」
「塩ふって、ビールね」
「うん」
「ザルどこ？」
夏の食卓だよ、これ。
智くんの家で抜け殻みたいに過ごしたあの夏は、枝豆、食べたんだっけ。
覚えてないけど
ホカホカの湯気からはしあわせの匂いがした。
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奈緒(プロフ) - keiさん» お久しぶりです〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 私にとっても大切なお話なので、ゆっくりではありますができるだけ進めたいと思います。 (2016年12月8日 4時) (
レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - 智花さん» はじめまして。隅っこのお話を見つけてくださって感謝です。のんびり大切に書いていたら随分時間がかかってしまいました(*´-`) 気を長くお待ちいただけたら嬉しいです。 (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - さなえさん» さなえさん〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 時間を見つけて書き続けたいものです。どうぞ長〜い首にマフラーを巻いてお待ちくださいませ(笑) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - まいさん» コメントありがとうございます(^^) とてつもなく遅いお返事ですみません…。のんびりやっておりますが時たま思い出して楽しんでいただければ幸いです♪( ´▽｀) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
kei(プロフ) - 待っていました(^-^) 仕事行く前の朝のひととき。慌ただしい気持ちが静かになりました。切ないけど大好きなお話です。また楽しみにしています！ (2016年12月7日 7時) (レス) id: c3893fc157 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：奈緒
| 作成日時：2015年1月25日 20時
