ゆずと枝豆 １ ページ5
食卓の上にゆずが2個。
今日の夕方、はす向かいのおばあちゃんがやってきた。
智くんの家から、はーいって出てきた私に
ちょっとだけ首を傾げたけど
いやぁね、歳とると忘れっぽくて、とつぶやいて
「Aちゃん、はい」
って、ゆずをくれた。
手渡された黄色いまるに
困って立ちすくんだ私に、
おばあちゃんは
「刻んでもいいし、皮だけお風呂に入れてもいいわよ」
って言った。
私はウンともスンとも言えなくて
おばあちゃんは旬なのよと言った。
ありがとうって呟いたけど耳が遠いらしいおばあちゃんに聞こえたのかは分からなくて、
おばあちゃんは旬なのよともう一度言って帰って行った。
私は両手に一個ずつ、黄色いまるを乗せて
なんだか気の遠くなるような泣きたいような情けない気持ちで智くんの帰りを待つ。
食卓の上にゆずが2個。
智くんの代わりにモアイを抱きしめて食卓につく。
「おまえ、どうせなら智くんの顔に作ってもらえばよかったね」
モアイは返事をしないし、
食卓の上には、ゆずが2個。
陽がだいぶ陰って、台所の出窓からは西日も差さない。
弱い私は、こんなにも簡単にあの日に引き戻される。
食卓でモアイを抱えてるはずの私は
職場の最寄り駅の地下道で、あぁ違った、元職場の、最寄駅の地下道で
同期の友だちと…あぁ、ちがう。向こうは友だちだと思ってなかったんだから、同期と…
ちがう。元、同期と。
とにかく、一緒にいた。
"ゆず"がつくかわいい名前のかわいい彼女は
名前にふさわしい香水をつけてた。
かわいい子はみんな甘ったるい香りを纏う中で
柑橘の香りが爽やかな彼女を、私、とっても好きだった。
簡単に、ヒトコトで言うと、裏切られた？
ちがうかな？裏切った？
裏切っていた、なのかな、私が。
でも、もう思い出せない。
思い出したら息ができなくて
全部に蓋をしてしまった。
もう一生思い出したくないあの日の代わりに、
今の穏やかな智くんとの生活がある。
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奈緒(プロフ) - keiさん» お久しぶりです〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 私にとっても大切なお話なので、ゆっくりではありますができるだけ進めたいと思います。 (2016年12月8日 4時) (
レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - 智花さん» はじめまして。隅っこのお話を見つけてくださって感謝です。のんびり大切に書いていたら随分時間がかかってしまいました(*´-`) 気を長くお待ちいただけたら嬉しいです。 (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - さなえさん» さなえさん〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 時間を見つけて書き続けたいものです。どうぞ長〜い首にマフラーを巻いてお待ちくださいませ(笑) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - まいさん» コメントありがとうございます(^^) とてつもなく遅いお返事ですみません…。のんびりやっておりますが時たま思い出して楽しんでいただければ幸いです♪( ´▽｀) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
kei(プロフ) - 待っていました(^-^) 仕事行く前の朝のひととき。慌ただしい気持ちが静かになりました。切ないけど大好きなお話です。また楽しみにしています！ (2016年12月7日 7時) (レス) id: c3893fc157 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：奈緒
| 作成日時：2015年1月25日 20時
