夜中のせんべい 4 ページ32
智くんの瞬きは美しい。
睫毛が長いからかな。
パチリと音を立てるように閉じて、開く。
「私、翔くんに抱かれた」
「…うん」
驚いたように目を見開いた後
小さい声で返事をされる。
知ってたよって表情。
好きな人にこんなことを告げる私は、バカだ。
好きな人にこんな顔させて、私は。
「翔くんのことが好きだったの。翔くんのことを好きな人はたくさんいたけど、そんなの構わないって思った」
「うん」
「翔くんが私を好きなら、それ以外どうでもいいって思った」
「そうだね」
「あのこが、翔くんが、」
言葉に詰まった私を
優しい瞳が覗き込む。
大丈夫だよって、ふんわりこころを包み込まれる。
「大人になってから、付き合って下さいとか言わなくなるじゃない？付き合ってるんだと思い込んでたの、私」
智くんの右手が伸びてきて、カップを包んでいた私の左手の指先を掴む。
日に焼けた右手が優しくて、フッと笑う。
「あの日にね、友達に言われたの。Aちゃんがいるから私がこんな思いしてるの、って、言われた」
智くんの細い眉の間にしわが寄る。
智くん、怒らなくていいよ。
私が悪いから。
悲しまなくていいよ。
私が悪いの。
「あの子と翔くんの邪魔をしてた。私のせいで、どんなに苦しい思いしたかな。」
「…」
「智くんに会ったあの夏の日まで、私、気付かなかったんだよ。自分のことだけ精一杯で、他の人の翔くんへの気持ちなんて無視して、でも、あの子と翔くんが想い合ってたなら、私は何？」
「…」
「翔くんに初めて抱かれた日、酔ってたの。間違えられたのかな、あの子に」
「…A」
「翔くん責任感強いし、おままごとみたいに、お付き合いごっこ？してくれたのかなぁ」
「A、わかった。もういい」
「友達を傷つけて、好きな人を縛り付けて。酷いでしょ？」
フフッ
鼻で笑ったら智くんが傷ついた顔をする。
智くんまで傷つけるんだ、私は。
「酷いことしてたのに、それを突き付けられて、ショックで。智くんに拾ってもらって守られて暮らしてる。最低でしょ？親にも会いたくないの。こんな娘で、見られたくない。ごめんね、智くん」
「もういい…」
「ごめんね」
もういいからほら、何か食べよ、って
智くんがおせんべいを出してきた。
コーヒーには合わない。
夜中にボリボリ。食後なのに。
お年寄りが好きそうな、堅いおせんべい。
私、このまま年老いてしまえれば、いいのに。
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奈緒(プロフ) - keiさん» お久しぶりです〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 私にとっても大切なお話なので、ゆっくりではありますができるだけ進めたいと思います。 (2016年12月8日 4時) (
レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - 智花さん» はじめまして。隅っこのお話を見つけてくださって感謝です。のんびり大切に書いていたら随分時間がかかってしまいました(*´-`) 気を長くお待ちいただけたら嬉しいです。 (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - さなえさん» さなえさん〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 時間を見つけて書き続けたいものです。どうぞ長〜い首にマフラーを巻いてお待ちくださいませ(笑) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - まいさん» コメントありがとうございます(^^) とてつもなく遅いお返事ですみません…。のんびりやっておりますが時たま思い出して楽しんでいただければ幸いです♪( ´▽｀) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
kei(プロフ) - 待っていました(^-^) 仕事行く前の朝のひととき。慌ただしい気持ちが静かになりました。切ないけど大好きなお話です。また楽しみにしています！ (2016年12月7日 7時) (レス) id: c3893fc157 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：奈緒
| 作成日時：2015年1月25日 20時
