苦いコーヒーには甘い過去とお砂糖を少々 3 ページ27
ピザが大好きなのは、
智くんではなくて翔くんだった。
ちょっとした仕草に育ちの良さがチラリとのぞくのに
彼にはジャンクフードが似合う、と私は思う。
ピザとコーラを掲げてカウボーイハットを被った少年時代の翔くんなんて、
想像するだけで最強に可愛いじゃないか、と思う。
私たちは電車の方向が同じだったので
よく一緒に帰った。
ふたりで過ごした時間が多かったせいで
恋だと、錯覚したのかもしれない。
あるいは、あれは恋だったのかもしれないけれど。
一緒に迎えた初めての夏に。
同期呑みの帰り道、終電の車内で
そっと翔くんは私の手を包み込んだ。
そっと、そっと包まれた私の手は
電車の冷房に負けてひんやりと冷たい。
翔くんを見上げると
「何？」
とぶっきらぼうに言って目を逸らされた。
器用なはずなのに不器用な人だと思った。
あの美しい微笑みを見せたら
女の子なんてイチコロなのに
ここぞというタイミングで武器を使わない彼を、
私はあの夏の夜に
愛しい、と思った。
「寝てていいよ。着いたら起こしてやるから」
「うん」
寄りかかった身体の左側に体温を感じて目を瞑った。
握られる手のひらは少しずつ熱を分け合って
冷えてしまっていた私の手のひらはじんわりとほどけた。
酔っているせいか高めの彼の体温は
私の身体を温めた。
「翔くん、こうしてると暑い？」
「ん？平気だよ」
人まばらな深夜の車内で囁くと
眠りかけた脳に、翔くんの甘い低温が響いて溶けた。
「そっちのテーブルはなに話してたの」
「あー、くだらないことだよ」
「ふぅん」
「同期だと学生ノリで楽しいな」
「うん」
「おれら3か月の節目を越えたからしばらく安泰だな」
「うん…なにが？」
「3日、3か月、3年って言うだろ」
「…」
「辞めたくなるサイクル」
「…」
「起きてる？」
「ぅうん…」
「ぷっ。いいよ、寝てて」
肩に頭を預けたら傾斜がちょうどよくフィットした。
翔くん、なで肩のいい所、見つけたよ。
眠りに落ちる直前に囁いたのは
声になっていたかな。
あなたに、聞こえたかな。
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奈緒(プロフ) - keiさん» お久しぶりです〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 私にとっても大切なお話なので、ゆっくりではありますができるだけ進めたいと思います。 (2016年12月8日 4時) (
レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - 智花さん» はじめまして。隅っこのお話を見つけてくださって感謝です。のんびり大切に書いていたら随分時間がかかってしまいました(*´-`) 気を長くお待ちいただけたら嬉しいです。 (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - さなえさん» さなえさん〜！いつもありがとうございます( ；∀；) 時間を見つけて書き続けたいものです。どうぞ長〜い首にマフラーを巻いてお待ちくださいませ(笑) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
奈緒(プロフ) - まいさん» コメントありがとうございます(^^) とてつもなく遅いお返事ですみません…。のんびりやっておりますが時たま思い出して楽しんでいただければ幸いです♪( ´▽｀) (2016年12月8日 4時) (レス) id: 5db05a964a (このIDを非表示/違反報告)
kei(プロフ) - 待っていました(^-^) 仕事行く前の朝のひととき。慌ただしい気持ちが静かになりました。切ないけど大好きなお話です。また楽しみにしています！ (2016年12月7日 7時) (レス) id: c3893fc157 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：奈緒
| 作成日時：2015年1月25日 20時
