抱いた憧れと関心 ページ1
そこは、とても暗い場所だ。静まりかえったあたりに輝きなんて微塵もない、つまり影そのものだ。…スポットライトが闇を照らし出すまでは
「…それじゃ、第三幕の戦闘シーンから入りまーす」
後ろの音響さんからの掛け声と共に、一瞬にして場の空気が変わるのを感じながらマイクの前に歩み出る。映し出されたスクーリーンに合わせて声を入れるのが俺の仕事
「『…たとえ一戦交えた者だとしても俺は…好きでした。あなたが」』
桜舞い散る背景のなか、最後に主人公が恋した女性との別れの一場面。台詞は至って短いがその言葉に、主人公と女性の同じ時を過ごした時間と想いを込められるかが重要なシーンだ。…だが
「すいませーん、もう一度お願いします」
リテイク4回目って、やばくね?
☆
最初に『声優』という仕事を視野にいれたのは、好きな海外ドラマの吹き替えの声が嫌に頭に残ったからだ。別に特徴ある声でもなく、いたって平凡で「声優って、こんなもんなのか」と小馬鹿にしたのを覚えている。つまらない、と思い番組を変えようとした瞬間息が止まるくらいの凛とした声が頭に響く。
…それは吹き荒れる風のなか、大きく羽ばたく蝶のように
場の空気を飲み込むような透き通った音
『僕も、大好きだよ。』
たった一つ、その台詞が何度も脳内で繰り返された。単なる五十音の集まりではなく、その言葉だけで時の流れと愛の深さを表した声に
「これが、声優…」
俺が関心を抱いたのが、全ての始まり。
**
「お疲れ様でーす」
監督のその一言で一気に肩の力が抜けるのが分かる。たがが30分のアニメに4、5時間のも収録は普通らしいが、その間新人の俺は大御所や人気声優と同じ空間にいるのは辛い…辛すぎる。
はぁ、と自然と出た溜め息に呆れたとき髪をバサバサとされ、慌てて後ろを振り返った。漆黒の髪にどこか幼さを感じさせるその人物は、子供のような無邪気な笑みを見せて笑う。
「お疲れさまー、どう?初の主役は」
「心臓と胃に悪いですね。生きた心地がしないです」
あっさりとそう言って退けると声の主、超人気声優の『梶裕貴』は、あははと笑って俺の頭を、正確には髪をぐしゃぐしゃにする。
「ちょ、先輩…!」
「Aはいい方だって。デビューしたての声優がレギュラー、しかも主役なんてそうそうないよ」
んじゃ、と別れの言葉を言って先輩はどこかに向かう。遠くなっていく彼の背中が、俺との距離を示すようで…上下関係と経歴の差を物語っているように感じた。
……運がいい、か。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
last angelラッキー名言
白か黒か、色を決めてしまえばそれは敵を自ら決めるのと同じことでしょ?cv神谷浩史
17人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ナツカ | 作成日時:2017年3月31日 14時